2014年5月28日水曜日

米国歯内療法専門医(Endodontist)とは?

米国歯内療法専門医(Endodontist,エンドドンティスト)とは何でしょうか?

それ以前に多くの方から言われましたが、
“なぜわざわざアメリカに行ってまで、その資格を取りたいのか?”
と言うご質問を受けました。まずこの事から解答したいと思います。

『日本人の方がアメリカ人より器用じゃないですか?』
『日本で歯内療法専門医を目指せばいいじゃないですか?!』
という意見、良く拝聴しました。

仰る事は確かに理解できます。

しかしながら、結論から言うとこの資格は日本では残念ながら得る事ができません。
アメリカで無ければどうしてもならないのです。

例えば、日本の歯科医師免許証を例に挙げてみましょう。
日本の場合は歯科大学を6年修了すると、歯科医師国家試験を受ける資格を得ます。
これにパスすると、歯科医師となれる訳です。
しかしながら、いきなり開業する事はできるでしょうか?
まず、100%無理です。
まずスキルが有りません。たとえ開業するお金が潤沢にあったとしてもまず卒業していきなり開業する人はいないでしょう。
なぜでしょうか?
それは歯科大で歯科大を卒業すると同時に即開業できるような臨床教育が実施されていないからです。

えっ?良くわからないよ?!
ではもっとわかりやすい例えで説明しましょう。
貴方が、F1ドライバーになりたいとします。
まず何をしますか?
運転免許を取りますよね?
免許を取っていきなりF1レーサーになれますか?
F1レーサーになる為には訓練しないと行けないですよね??
自動車学校で訓練は?・・・できません。
それ以前に、免許を取ったら1年間は若葉マークをつけなければなりません。
運転に慣れていないからです。
F1レーサーになる為には、それ専用の学校に行き、走る訓練をしなければなりません。
勿論、高度な知識も必要です。
しかし、同時に多くの高度な運転の訓練も必要です。
一朝一夕でそれは身に付くものではないですし、F1レーサーとして世に出るには一定期間の集中的な訓練が必要です。

アメリカの歯科大学院はそのようなF1レーサー養成の場とでも考えてみてください。
すなわち、日本の歯科大学院では患者さんの治療はほぼできません。研究に明け暮れます。それもほとんど臨床からはかけ離れた研究が多いのが現状です。
日本歯内療法学会が認定する専門医や認定医は有りますが、患者さんの治療を行うような施設は有りません。自分の臨床的スキルを上げる事ができないのです。

それに対してアメリカの場合は、嫌という程臨床(患者さんの治療)を行う事ができます。プラスその専門分野の知識を集中的に得る事ができます。
このような臨床と臨床的専門知識の双方を得る場がアメリカの歯科大学院には有ります。

良く聞かれますが、私は研究をしにアメリカへ行く訳ではありません。
患者さんの治療をしに、自分の専門分野(歯内療法)の臨床スキルと知識を向上させる為にアメリカへ行きます。
そうして首尾よく卒業すると、米国歯科医師会が認定する米国歯内療法専門医(Endodontist)になる事ができます。
米国歯内療法専門医になると、即歯内療法で開業する事が可能なスキルを身につける事ができます。

この事は、日本の根尖性歯周炎(歯の根の先の病気)の治療と予防に大きく寄与できると私は信じています。
特にこの福岡県および九州には、米国歯内療法専門医は未だゼロです。
開業以来、多くの患者さんが主訴として来院されたこの問題が少しでもこの地から少なくなる事の為に、私の残りの歯科医師人生を捧げていきたいという思いで、私はF1レーサーならぬ、米国歯内療法専門医になる事を夢見てそして今スタートラインに立つ事ができました。

これが私が目指している、米国歯内療法専門医であり私が米国歯内療法専門医になりたい最大の理由なのです。

Akira Matsuura
USC Endo Resident, Class of 2016



私が米国歯内療法専門医を目指した理由

皆さんはじめまして。
Yahoo!ブログでご存知の方もいらっしゃると思いますが、改めて自己紹介をさせていただきたいと思います。

私は歯科医師の松浦顯(まつうらあきら)と申します。

1975年島根県松江市で生まれ、縁あって長崎大学歯学部を2002年に卒業、2006年より福岡市で一般歯科の開業医をしていました。歯科医師としては13年目を迎えます。

この度、この40手前の私が、2014.6~2年間ロスのUSC(University of Southern California,南カリフォルニア大学)の歯内療法科の大学院で学ぶ機会を頂き、今はいよいよ後数日で渡米という段階です。
現在の心境は期待と不安が半々といったところでしょうか。。。

私は開業医として大変満足いく仕事をさせていただいていました。
それに対して何の不満もありませんでしたし、このままずっと開業医として歯科医院を発展させる道もあったかと思います。

しかしながら、私は紆余曲折を経て歯内療法専門医になろうと決めました。
その最大の理由は一般医(以下GP;General Practitionerとします)として以下に述べるような出来事があまりにも多かったからです。

“つい最近setした補綴治療(クラウン修復治療)の部位が腫れて痛い”

“神経をとった歯は枯れ木のようにもろく、いつか100%必ず抜歯になるからインプラントに代えた方がいい”

“根の治療に何年も通っているが治らない、治療が終わらない、先が見えない”

“根の病気は治癒しないし、それがあると全身に悪影響(病気)を及ぼすので抜いた方がいい”

こうした患者さんの問題はほぼ100%に近いくらい、根管治療の問題に起因しています。
根尖病変は外科治療まで含めればおよそ90%でマネージメントが可能です。
しかし、この世界の常識は日本では非常識とされます。
上述の不幸な話は、根管治療に対する患者側、術者側の理解不足、誤解が招いているといっても過言ではありません。

私はかつてGPの時代、Yahoo!ブログで再三根管治療の話題について語ってきました。
しかしながら、私がどうこう言えども患者さんは華美な歯科医院や権威ある?歯科医の意見を鵜呑みにしてしまい、私の意見は袖にされるということが多々ありました。

言葉は悪いですが、肩書きがない私がネットでワーワー叫んでもそれは
“何か根の治療に詳しい奴が変なこといってる”
に過ぎなかったのです。

私は日本歯内療法学会の認定医でも専門医でもありません。
そうした肩書きを欲しいと思ったこともありませんでした。

しかし悲しいかな、私の意見と大学病院のそうした専門医といわれる先生の意見を比べたとき、市井の開業医である私の意見を信用してくださる患者さんの数は圧倒的に少ないといわざるを得ませんでした。私の意見に聞く耳を持ってくれないのです。
私はこの理由を考えたとき、素直に自分自身の知識不足、鍛錬不足が最大の問題だと痛感しました。

ではそれをどこで補うのか?開業医向けの様々な卒後研修会に参加しました。
そのさなか私は、恩師で師匠であるペンシルベニア大学歯内療法科卒で米国歯内療法専門医の石井宏先生の講義を1年間受ける機会があり、そこで歯内療法学に大きく魅了されました。
すべての歯科医療の中で最も論理的で、しかもかなり高い確率で問題をマネージメントできる、かつ患者依存の治療ではないetc...
学生のときに学んだことは何だったのか?というくらい衝撃を受けました。

そのとき、同時に私は歯科医療の原点(患者さんが歯科医療に期待すること)は何か?と自問自答するようになりました。

なぜ耳鼻科にあなたは行きますか?
なぜ内科に?なぜ整形外科に?

答えは言わなくても分かると思います。
しかし、歯科医院はどうでしょうか?
歯科医院のHPを見れば、インプラントや審美歯科がTopに載っています。
患者さんが求めることはそのような欠損に対する代替医療や見た目を芸能人のように?改善することでしょうか?
歯科医療は文字通り医療です。図画工作ではありません。

高価なクラウンを被せるのは必要悪で(歯を破折から守るためには)致し方ないことで、患者さんの多くは望みません。

しかしながら我々はそれに鈍感すぎるのではないでしょうか?

患者さんが我々に望むことは、痛みや腫れなどの歯科的疾患の適切な治癒です。
それが歯科医療の本質のはずです。
しかしながら現状でどうでしょうか?

日本の歯科医療は本質から相当大きく外れている気がします。

ではそれをどう変えていけばいいか??
私の中でその答えが、
①なるべく科学的に許容された考えや術式を患者さんに提供すること
②その結果、多くの患者さんの歯科的知識を啓蒙すること
③成功率が北米に比べて著しく低く、日本人の多くが持つ“本当の国民的歯科疾患”である、根尖病変の治療と予防によりその有病率の低下に寄与すること
であると言う結論に至りました。

この目標を現実にするための第一歩が米国歯内療法専門医になることでした。
この夢を実現するのには数年という時間を要しました。
特に(今でも何ら改善されていませんが)英語に対する壁はTOEFLの段階から相当高く、私をおおいに悩ませました。
開業し、治療、経営、人事、自己鍛錬を行う上での英語の勉強はとてつもなく困難なことでしたが、なんとかクリアし、Facultyとの面接と筆記試験を経てUSCの歯内療法科のレジデントの一員にさせて頂きました。

このブログが目指すものは、私が愛してやまない、The Endo Blogのような根管治療の本当の専門家が正しい考えを不特定多数の多くの人に理解して頂くようなものです。
この2年間は大学院での診療や日々の出来事が中心になってくると思いますが、これからどうぞよろしくお願いいたします。

Akira Matsuura
USC Endodontic Resident, class of 2016