2014年10月25日土曜日

開業の準備スタート

日本帰国まで1ヶ月半になった。
おいおい、まだまだ全然終わってないでしょう?と言われそうだが、そろそろ帰国時の開業地を探さなくてはいけない。

通常、歯科医院を開業するには1年か1年半前から準備しなくてはいけない。
残念ながら私の財力では、帰国してから開業地をゆっくり探して・・・などという悠長なことを言っている暇はない。

家族や、スタッフ、そして自分も生きていかなければならない。私が今こうやって学習している時間を頂いていればいるほど赤字になるのは税理士から言われなくてもよくわかっている。

Live for Todayで、私には傷ついた?羽を休める時間はないのだ。
私は帰国してすぐにでも働かなければならないし法人の理事長として、常に先のことを考えて生きていかなければならない。

エンド専門で開業するので、実はユニット1台で開業できる開業地を模索している。
スタッフも最初は1人いればいい方で、下手したら自分だけでも構わないが昨今様々な問題も世の中では起きていることを聞くので、やはり1人は最低必要だろう。

広さは10坪もあればいい方で、それ以上の規模は考えていない。ビル診で博多駅周辺がベストだ。すでに何箇所か目星はついているが、いずれも家賃が10万ちょっとくらいで今のロスのアパート代(20万が相場)よりもはるかに安いので安堵している。

開業!というと数千万かかるのが通常だが、私の次の開業ではそれほど費用はかからない。強いて言えばテナントを借りる時のまとまったお金と、内装工事費くらいだろうか。帰国すると保険医をしないので、もう新しいクリニックに看板はいらない。

宣伝も全くする気もない。ネットで十分すぎると思っている。
ユニットも既に持っているが、最悪新しく入れてもリースで十分である。
滅菌のシステムもそうだし、エンドの器具は既に所有している。
あとはレントゲンのシステムのみであるがこれも保険医では必須のパノラマは私には必要がない。PAだけ撮れるシステムがあればいいのである。
超音波もすでにあるし、外科の器具もあるし、あと考慮しなくてはいけないのはマイクロスコープををプロエルゴに変えるか、CT を入れるかくらいだろうが、CT撮影できる病院が近くにあるので(福岡歯科大学)、それも最初はいらないだろう。

最初は慎ましくやっていくのが自分に合っている。
また、もしこの地で私の需要がなければ、医院を閉めて次の場所へ移動することができる。それが日本国内でなくてもいいわけである。なんならここLAでもいいわけだ。(その気はゼロですが。)

エンド専門医のいいところはここである。開業時の初期投資が少なくて済む。機材も学生時代に揃えてしまえば、新たに購入すべきものが見当たらない。新たなファイルシステムが出たとしてもたかが知れている。自分が開業地としてそこが気に入らなければ次々移れるのだ。また自分で開業しながら他院さんの患者さんを治療することもできる。(現時点でありがたいことに既にそのような話を頂いている。)北米では事実そうである。私の同級生の奥さんが既にエンドドンティストだが、彼女はしょっちゅうオフィスを移転している。なぜエンドのPGプログラムにみんなが入りたいかという理由の一つがここにある。

もう自分は、自分の納得できない仕事をする気はさらさらない。価値観が合わなければそこまで、である。

次回、12月に帰国するのでその時に適切な場所かどうか今ある物件を自分の目で確かめてみたい。(ということでこれをご覧のO税理士法人のSさん、N銀行の例の方に次回帰国時に物件の件、お伝えください。)

2014年10月24日金曜日

隔壁、作らない?

先週の火曜日の午後から上級生のCase Presentationが始まった。

毎週火曜日は交代で朝ごはんか昼ごはんをエンドのレジデント、スタッフのために用意し、朝9時から教授の授業1時間、その後は我々はOral bilogyの授業、2年生はliterature review。午後1時から3時までケースプレゼン。3時から5時までがラスティンの授業。そ5時からナイトクリニックがあり、9時まで学校に毎週いるという生活で1日がとてつもなく長い。

Caseは非外科のInitial, Re-Tx、外科、リバス、その他の治療に関して6ケースを発表するというものである。

ケースプレはBoard Certifiedの試験用のひな形に準じて行なわれる。



ケースを通じて(といってもまだ2人しか見ていないが)私が個人的に特に気になったのは、

①カリエスの完全除去ができていない(コンタクトカリエスがそのまま)

②昔のコンポジットやアマルガムが明らかにそのまま隔壁として使用されている形跡

③作業長と根充後のデンタルを比べると、明らかにオーバー。シーラーパフもたくさんあり、私ならこの症例は人前に出さない。

④作業長のレングスコントロールをどのように気をつけて行なっているのか?

⑤根尖部の拡大不足?(IBFがないので分からないし考え方の違い?)

⑥仮封材と根充材の間に隙間。細菌漏洩(感染)の温床

⑦PA(デンタル)の偏心があまり効いていない

⑧下顎大臼歯のHot tooth case(Symptomatic Irreversible Pulpitis)で1回法で根充まで行ってるが、どのように疼痛をマネージメントできたのか?

⑨疼痛や打診痛があるがそもそもなぜ1回法か?

等だが、特に気になるのが①、②である。

これがケースで出されるとおいおい根管治療の目的ってなんでしたっけ??と質問したくなる。しかも誰もそこに突っ込まない。

日本でもそうだったが、カリエスが深く、すべて取るとおそらく露髄すると思われるケース(病名で言えばSymptomatic/Asymptomatic irreversible pulpitis)でどのように隔壁を作るべきか?いつも頭を悩ませてきた。

特に難しいのが#2,15,18,31の第2大臼歯である。それ以外であれば数歯(1歯)遠心にクランプをかけて患歯のカリエスをとり(どこまで取るべきかはここでは割愛させて頂く)、トッフルマイヤーを巻いてウエッジを挿入し隔壁を綺麗に作るという保存修復時のスタイルでラバーダムをかけることができる。

またなるべくこの隔壁は治療後外したくないので(めんどくさいからである)、可能な限り露髄しない程度カリエスが除去され、防湿できれば、コア用のコンポジットレジンを用いて隔壁を作ってしまう。ただし、ラバーしているのにもかかわらず防湿が不完全な場合(縁下カリエスの場合)、コンポジットで隔壁を作ると漏洩が大きくなるのでGlass Ionomerを選択する。これは概ね保存修復の教科書に書いてある通りのマテリアルの選択であると思うが、問題はこのような場合、根管治療後にこの隔壁を取るかそのままにするか?であるが、外すのであればラバーダムができない歯なのでメタルで築造してもらうかそもそも治療することを諦めるか、クラウンレングスニングをペリオ専門医にしてもらうか、補綴的に許されれば挺出してもらうかの4択に私の場合は基本移行する。

なお、これを無理やりレジンで築造するなら私はグラスアイオノマーを外すことはしない。防湿できないのにレジンを使用してもしょうがないからだ。あえてグラスアイオノマーを可能な限り薄く一層残してレジンで築造し、クラウン形成の時に補綴担当医になんとかしてもらうしかない。日本では自分で補綴していたので自分でそうやってなんとかしていた。圧排糸を2本は使用し、顕微鏡を覗いてなんとか歯冠形成したものだ。当然マージンはややヘビーシャンファー気味になる。仕方がないのである。条件が悪い歯を治療して残すという判断になったのだから。ここでよく議論になるのがこういう場合はクラウンレングスニングをしなさい!とか、挺出しなさい!という話でかつてGPの時代にはそのようなアドバイスをいただくことが同業他社様から時折あったが、それらが補綴的な問題を決して完全に解決できる手立てではないことは、これだけネット社会が広がった今、多くの方が認識されているのではないだろうか?昔は、縁下深いマージン=クラウンレングスニングor エクストルージョンと誰が決めたかわからないが謎の方程式が存在したものだが。。。

話が逸れたが、私が言いたいのは隔壁のことである。
以上はまだ患歯が第2大臼歯ではない場合で、しかしこれが第2大臼歯だとそううまくいかない。まずラバーダムのクランプを第3大臼歯(親知らず)にかけることが事実上不可能だからだ。抜歯されている場合も多いのでこの場合、第2大臼歯にクランプをかけるしかないのだ。すると困るのがコンタクトのカリエスをどう処理するかである。マトリックスバンドで巻きたいところだが、ラバーダムのクランプが邪魔で無理である。ラバーを外してトッフルマイヤーを巻いてそこにラバーダムかけるという試みも何度か試したがこれも多くの場合物理的に無理である。結果、日本ではラバーを外し、Zooに切り替え、そこで可及的に防湿を行いグラスアイオノマーで隔壁を作るか、そもそもバンドを巻かずにエンド後のクラウン形成中についでにはみ出したグラスアイオノマー(レジン)を除去してもらうかしたものである。

こちらではどうやって隔壁をみんな作っているのか?気になって特にそこに注目して話を聞いていたが、カリエスはそのまま、昔の充填物は外さない、ということが多い。私が最初Facultyと話がかみ合わなかったのはここである。

"君は根管治療をやりにここにきているんだろう?”
"時には防湿が不完全になるときもあるさ。。。問題はこの歯を残したいってことだ。違うか?”
”(縁下カリエスに対して)ラバーダムすることはここでは絶対不可避だ。絶対にラバーダムしてグラスアイオノマーで隔壁作るように。”

と自分が気になる、このような縁下カリエスがラバーよりも下にくる場合どのようなマテリアルを選択してどのように隔壁を作った方がベターなのか?あるいはそもそもこの時点で抜歯なのか?に関して示唆をくれる意見をまだ得れていない。
いや実は自分でも薄々感じているが、答えはもうお互い暗黙の了解で出ているのかもしれない。なので自分は(この部分に関しては保存修復でのロジックがあるので説明しろと言われれば何故自分がそうするか?を説明して見せることはできるのだが、そうした瑣末?な細かい?ことに関してエンドの科で議論することがもはや場違いなムードが漂っているせいか、最近はここにいる間は)割り切って患者さんには申し訳ないがバンドも何も巻かずにそのまま穴にグラスアイオノマーを無理やり突っ込んで隔壁を無理やり作り、エンドの症例が欲しいがためにエンドに早く持ち込み、そしてエンドをなるべく早く終わらせ、後はよろしくね、になってしまっている。

確かに症例を300こなさないといけないのでそんなことを言っている暇はないのかもしれないが。。。手技ばかりに目が行くのも何か違う気がするのは自分だけだろうか?


2014年10月20日月曜日

Patency File、是か非か?

最近、ある歯科医師の方から、Patency Fileに関して私が否定派なのはどういった根拠からか?実は自分は賛成派で、臨床上もほぼトラブルなく過ごしているし、Pathway of the PULPを読んでみても否定的な書き方はされていないと思うのですが。というご質問を頂いた。

Patency Fileとは根尖部に詰まった削片を小さなファイルを用いてアピカルフォラメンから数mm出すことで除去し、作業長を可及的に維持するための処置である。

AAEの用語集では、apical patencyとして収録されており、
” A technique where the apical portion of the canal is maintained free of debris by recapitulation with a small file through the apical foramen.”と定義されている。

さてこの行為について私は大学時代、習った記憶がない。この方法は開業してから知った方法で、歯科雑誌か何かに乗っていたような気がするが、記憶は定かでない。
USCではDDSプログラムで作業長を維持するための必要なテクニックとして学生にしっかりと教えている。したがって実習で学生が作業長までファイルが到達しないという局面に達すると、patency fileをしてこの根尖部の詰まりを除去することでそうした問題を解決してあげている。(ただし彼らのほとんどは抜去歯牙での根管形成中、洗浄液を根管に満たさずにファイル操作している。これが詰まる最大の原因だが。。。)
しかしこの方法を教えている北米の歯科大学(DDSプログラム)は約50%だという。
このことからしてもPatency Fileというのは議論が分かれる治療行為といえるだろう。

実際に学生実習でpatencyを行うと確かに尖通性は復活するが、この時同時に根管のdebrisがアピカルフォラメンから出てくるのが確認できる。これは大丈夫な処置なのだろうか?これが感染根管だったら細菌感染を根尖孔外へ逸出させるのではないだろうか?また術後の痛みが出ないのだろうか?と色々考えてしまう。

私自身も気に成っていたトピックであり、この先生から御質問をいただいたので少し調べてみようと思った。数年前に某講習会でこの話を聞いたときは、確か”しないほうがいい処置である”という記憶がある。

まず各種教科書ではどのようにこの行為を捉えているだろうか?有名と言われている教科書を全てレビューしてみたら賛成派と反対派に分かれている。また全くこの件に関して記述がないものが見られた。(その多くはヨーロッパのエンドドンティストの教科書だった。)

概ねこの行為は、”作業長の維持には有効だが、この行為自体がいまだいいのか?悪いのか?十分なエビデンスがない”という評価である。

その中で、肯定的な意見を見てみると、①作業長が維持できるので根管形成による人的エラーのリスクを減らせる②デブリが除去できる?③術後疼痛を引き起こさない④ヒポクロを根管内に満たしておけば、これで感染する可能性は最少⑤突き出すことで根尖部の炎症や感染の状態を把握できる(例えば浸出液や排膿が確認できれば感染や炎症の程度が確認できるby Ng)⑤洗浄液の到達が良くなる?(エビデンスはないが)⑥Patency Fileを行うと、エンドの予後が向上した(retrospective study)⑦グライドパスを確立または維持できるというものであり、どちらかといえば生物学的な理由よりも機械的な理由(根管形成や充填を上手くやる)が優先されている。

patency大反対の急先鋒は多くの鮮やかな組織切片を我々に提供してくれているD. Riccuciだ。彼はpatency fileが治癒を促進するのか悪化させるのか、治癒にどのような影響を与えるかははっきりしたエビデンスがまだないと断言し、しかも自分の臨床の中でPatency Fileを行なっていないと述べている。またGuttmanもPatency Fileは経験主義的でこのコンセプトとテクニックをサポートする十分な研究はないと教科書で述べている。またWilliam T. Johnson とW. Craig Noblett もデブリや洗浄液細菌の突き出しに対する懸念が考えらるし、それにより根尖部歯周組織に感染源を供給するし、治療の失敗は根尖孔外細菌感染で起きるわけで、patencyをやっても細菌が減ることもないし、トランスポーテーションも起きにくということはないと述べている。また小さなファイルがデブリの除去にそれほど有効でもないとも述べている。
BergenholtzやØrstavik に至ってはこの項目すら教科書にない。それだけこのトピックに関して彼らは懐疑的なのであろう。現に、Bergenholtzの前のtextbokにはその記載があったが、最新版ではpatencyが削除されている。

さてこれらを総合的に考えると一つの結論に達する。
この行為は臨床的に有効だが、まだよくわかっていないことが多すぎるテクニックであるということだ。となるとこれをするのもしないのも、臨床家その人の考え次第ということになる。

例えば抜髄ケースで根尖部がブロックしたらいい気はしない。なので私はpatencyをこの時はするかもしれない。(ただし逆に抜髄の時は詰まったほうがいいという意見もある)
あるFacultyに聞いたとき、彼はこの意見を肯定していた。”patencyは歯周組織を傷つけているわけではない。例えて言えば皮膚の表面を擦っているようなものであり、それで炎症は起きないでしょう?”という理屈だった。しかし、それをサポートするペーパーはないので、やはりこれも経験主義的であると言わざるを得ない。この前講義を受けたラドルは超肯定派である。1mm出せ!そうすればアピカルフオラメンで#12となり、次の#15mmが容易に作業長まで入る(拡大率が50%→25%に減少するので)、patencyを確保しろ、Glide pathをしっかりやれ・・・という具合である。しかし教授のロヘスはやはり否定的だった。理由はペーパーで裏打ちされていないことはdiplomateとして、肯定する意見をEndodontistおよびEndoのレジデントに与えるわけにはいかないというものである。彼はペーパーにないことや懐疑的であることは一切しない主義である(しそうに見えるが)。

では壊死していたり、再治療で病変があるケースはどうだろうか?
この時は、細菌が根尖孔外へ逸出する可能性が否定できない。ということはそれが原因で難治化する可能性はなくはない。なのでこの場合は私はしないだろう。確かに根管にヒポクロを満たしておけばファイルの突き出しにより根尖孔外に細菌感染は起きないとする論文はあるが、in vitroでしかも1本だけであった。またこれはエビデンスはないが同期のレジデントがヒポクロを満たして作業長をレントゲンで計測、そこで若干ショートだったので少し調整したらヒポクロアクシデントが発生したという。またデブリの除去に関してもどれほど除去できるか分からない。術後疼痛に関しては壊死している場合patencyしたほうがしないものより術後疼痛が1/3以下になるという。デブリや細菌にまみれた汚れを根尖部に残しておく方がpatencyの刺激よりも炎症を引き起こすからだというのが考察としてあった。しかしこれには統計的有意差がなく、しかも術前に痛みがある場合や下顎の歯は上顎にの歯に比べて、patencyすると逆に痛みが出やすいという。色々な変数を考慮すると、patencyしたほうが術後疼痛のリスクを下げるのではないか?という結論であったが、確かになんらかの相関性はあるのかもという感じだが、歯切れが悪くなんとも言えない。

Patencyが!というよりも、前に述べたかもしれないが、根管が詰まる最大の原因は根管が乾燥していたり、洗浄不足である。私がつい先月まで作業長がややアンダー気味になっていたのもおそらくはラバーダムの継ぎ目を塞ぐマテリアルを持っていなかったがために、ヒポクロでの洗浄が曖昧になって十分な根管の洗浄ができなかったからではないかと推測する。現に、日本にいるときもそしてここに来て最近の臨床でも作業長がおもいっきりアンダーになることはもうほとんどないからだ。

以上を総合的に考えると、感染がないケースで、レントゲンを美しく見せたいなら、また根尖部の目詰まりが嫌ならpatencyをするのかもしれない。ただ、私はRiccuciやロヘスと同じく、patencyは全否定ではないができればしたくない処置であるということがやはりここからも結論付けられた。

もちろん、この処置で臨床的に問題が出ていない!という意見はよくわかるので、この件に関してもっと様々な研究がなされてペーパーの数も増え、エビデンスレベルも上がったリサーチが出て来れば白黒がつくことになるのかもしれない。

ここからは私の個人的な考えになるが、我々は歯科医師であるので、機械的な器具操作の良し悪しや術後の根充のレントゲンの美しさは無論、ある程度は重要である。
しかしながら、我々は何を相手に治療を行っているだろうか?根管治療であれば細菌、ということになる。
抜髄なら細菌を入れない、再治療や壊死ケースなら細菌を可及的に減らすということが目的と考えると、私の意見としてはもはやこの行為はテクニカルな目的で行うという以外、言及すべき言葉が見つからなかった。

これからのさらなるリサーチを待ちつつ筆を置きたいと思う。


2014年10月16日木曜日

下顎第一小臼歯、2根管

今日の午前中はほぼ1週間振りに患者さんの治療を行なった。

最近はどうもキャンセルや無断キャンセル、受付で支払いで揉めて帰る、診断だけしか今日はできないと説明したら怒って帰るetc...などが続き私にはいっぱい論文を読む時間が与えられたのだが、やはり臨床ができないと言うのは寂しい。全てのペーパーは臨床の為にこそ存在するがその臨床を奪われた感じである。

臨床に繋がらない研究やペーパーは臨床家にとって退屈である。勿論そういう授業も。
現在、様々な授業があるが一番面白くないのはやはり臨床から一番遠いMicrobilogyだ。
まるで高校、予備校時代の生物の授業のようであり、”決まり事”をスライドにして発表させるものだから私は毎回literature reviewの為の時間に回している。この授業からはほぼフィードバックが無い。来年の1月にはresearchの内容を決めなければならないがその時のテーマは私が臨床で最も関心があるテーマに特化したいと考えている。

話がそれたが、臨床家にとって最も重要なのは臨床であり、そこから学ぶものは強烈に印象に残る。

今日の患者さんはメキシコ人の女性で主訴は歯茎が2週間前に腫れたと言うものだった。
口腔内を見ると、#28-29-30に#281本支台のカンチレバーPFMが装着されている。ただ、#31にもPFMがあることから本人に問診すると、このブリッジは20年前に作製しその時は#28-29-30-31(欠損歯は#29のみ)だったが、10年前に#30を抜歯してその際、#30-31間、#29-30間でブリッジを除去して以来そのままだという。今回はそのブリッジの唯一の支台歯である#28に腫れが生じた訳だ。
口腔内を検査するとPFMは無惨に破折し内部のメタルが咬合面には透けていた。
#28の頬側は若干腫脹し、歯肉は若干退縮し一部見える歯頚部は茶色く変色していた。
Cold(-)、EPT図れず。Palpation(+), Percussion(-), Bite(+)。Sinus tractは無い。Pocketもwithin normal limit, Mobilityも同様。また全身状態も健康そのものだった。

レントゲンを正方線、偏近心、BT-wingで撮影。
根尖部には病変が見られた。
また正方線でも、偏近心でも明らかに複数の根管が確認された。頬側と舌側の2根管である。おそらく予測するにVertucci TypeⅤでないかと疑われた。



下顎の第1小臼歯が2根管である可能性11.5%–46%で人種、性別、リサーチの方法により数値は変わるが少なくとも複数根管を有する可能性を頭に入れておかなければならない。かくいう私も下顎の第2小臼歯は2根管だ。しかし、私は日本にいるときも下顎小臼歯の2根管など治療した事が無い。つまりこれは私にとって初めての下顎小臼歯2根管ケースと言う事になる。

PFM Bridgeを#28-29間で除去しそのまま#28にラバーダムをかけて治療が開始された。こちらではクラウンにそのまま穴をあけて治療するケースが非常に多い。この患者さんも明らかに私には不適合修復物だが、患者がNoといえばNo。FacultyがNoといえばNO。よって従うだけである。こういうところでいやカリエスが残ってるかもしれないし、それを考えたらまず除去して隔壁作って、プロビジョナル作って・・・・などという議論をここでするつもりはないし、無意味だ。なぜなら私はここでレジデントとしてお金を支払って歯内療法という臨床経験をしにきている訳だから。

アクセスキャビティープレパレーション後、ストレートラインアクセスを行ない、主根管である頬側根管の根管長からまず測定した。その後、舌側へアプローチする訳だが、クラウンが装着されており元の歯冠形態が損なわれているので、どの位置に舌側が?と迷うところだが、顕微鏡の強拡大で根管を探索すると明らかに舌側に天蓋が残存しているのが見つかった。こういうところが、エンドでマイクロスコープが必要であるゆえんだろう。抜髄ならまだしもこの歯は壊死ケースで病変もできているので根管の見落としは避けたい。レントゲンで確認できたが、実際は見つかりませんでしたとなると目も当てられない。残念ながらルーペではこの根管を攻略はできないだろう。
ともかくその天蓋を超音波で除去していくと実にtinyな根管口部が発見された。
しかしここで問題が起きる。ファイルが入らないのである。いや正確に言えばファイルを曲げないとファイルの挿入ができない。K Fileの31mmをベンディングさせると根管が触知されたが、私は作業長が図りたい。でもストレートラインアクセスしないとその作業長は短くなるし、レッジはできるし、ファイルの破折の問題も生じる。
歯軸に垂直に頬側根管は奏功しているが、舌側根管はこの写真のBように主根管から角度がついているためファイルを曲げないと入っていかなかった。つまりストレートラインアクセスを得る為にはゲイツやorifice shaperを歯の長軸に対して、Dの写真の角度αだけ傾けないと行けないのである。ただ悲しいかな角度αで舌側根管にゲイツもorifice shaperも入っていかない。(歯がなければ入っていくけど・・・)
つまり私にこの時残された手は、ファイルをベンディングして手用でストレートラインアクセスを得るか、何とか#10のNi-Tiをするりと舌側根管に挿入するか、超音波でこの舌側根管上部の象牙質をもっと除去するかしない限り、この根管にアクセスできないのだ。


超音波は歯質を過剰に削除してしまうし、もしかするとそんなに歯質が舌側には無いかもしれない。CBCTも無い。これ以上の切削は怖くなりこの選択肢は除外した。
ファイルを90度近く曲げてストレートラインアクセスをする事も、この舌側根管から根尖部までの距離が分からないしファイル操作しようにも手が邪魔で顕微鏡で根管の位置が確認しづらいので却下。そこでMB2を攻略するときのシークエンスを参考にEndosequenceの#10.02, #10.04, #10.06を用いてみた。すると10.02がするっと舌側根管に入ってくれた。そのままテーパーを上げて10.06まで行ったところでファイルを挿入し根管長を測定しようとしたが・・・手用ファイルが入らない。プリベンドしても入らない。90°に曲げると入るがこれではファイル操作ができないので作業長も図れない。格闘する事15分、何とかファイルをプリベンドして舌側に入った!と思ったらそこは舌側でなくて頬側根管だった・・・事が判明して衛生士の予約が13時からあるからはよ片付けてと催促されてこの日は終了した。

診療後、このようなケースはどのようにあたるべきか?Case reportを探してみたが、詳細な記述のあるペーパーを得る事ができなかった。

但し、こういういわゆるVertucciのType5型の小臼歯の解剖をCTで研究したものがあり(Lie et al. 2012)、そこでは舌側根管は根管2/3の位置から始まる事が多いこと、根管自体が湾曲している可能性がある事、上図のいわゆる角度αはそこまでないもの、最大で70°近いものまで様々であったとの記述があった。

さて私はこの今日の失敗(舌側にファイルを入れる事ができず、作業長が図れなかった)と上記のペーパーから何を学んだだろうか?
舌側根管は主根管である頬側根管から根管の2/3あるいは根尖1/3で分岐していること。
舌側根管があると思って、舌側は超音波で歯質を削除する必要がある事。
舌側根管へファイル挿入するのは非常に難しいこと。
根管口部の拡大はファイルをプリベンドするかNi-TIを用いるか否か?(要はテクニカル的な意見を多くのファカルティに聞き出しdiscussionすること)
などだろうか。

術後にfacultyのDr.  Schwarzbachとdiscussionしてみた。するとNi-TiがはいったのならNi-Tiが舌側根管に入ったところでモーターを止めてそのままハンドで使用してみては?と言う意見を頂いた。これを少しアレンジして次回何とか作業長を測ってみたいと思う。

しかし最近はこのような難症例ばかり配当されるので色々試行錯誤できて楽しい。
気がつくとこのtermももう10月半ば。いくつかの授業はmidterm testも終了した。
未だにカルテの書き方に慣れずに苦しんでいる事以外は何とか順応している。

今週末はラドル、フリードマンの講演、来週末はUCLAでエンドのセミナーがあり、今月はあっという間に終わりそうな気がする。

2014年10月9日木曜日

Tooth Projectのプレゼンテーション

今週の火曜日にTooth Projectと呼ばれる、抜去歯牙を根管形成して根管充填まで行ない、なぜ自分がその術式、その根充方法、その結果になったのかを発表してdiscussionするという日本人の私には最もタフなセッションがあった。


例えば抜去歯牙なので、作業長はこのセッションでは議論してもあまり生産性が無いが、作業幅径は議論に値する。なぜその号数まで拡大したか?と言う質問はたいてい拡大不足/過剰という認識から来るものであるので、自分の中にある考えを皆に伝えないといけない。伝えないと一斉にwhy? how?と言う質問が来て母国語が英語のレジデントでも答えに窮してしまう。

兎に角、教授や上級生から質問攻めにされるという1時間半を過ごさないといけないのは嫌なので先に自分で答えられるように自分の意思決定の根拠や処置の判断の正当性、ミスの原因を自分であらかじめ用意しておく。




しっかり準備して対応したため、私は殆ど質問攻めに合う事は無かった。作業長が何本か変わってしまっていると言う事以外には。

ただ、これは自分のいい訳になってしまうが、ここではラバーダムの周りを塞ぐコーキング材が使用できない。なのでヒポクロが口腔内にどうしても垂れてしまう。これを今まで何度もここで経験して患者さんに嫌な思いをさせてしまっている。するとどうしても洗浄がおろそかになってしまい、デブリが詰まりやすくなり、Patency Fileもあまりしたくない私は、作業長が短くなってしまっているという現象が起きている。また最近のシークエンスの変更等もありちょっとしたアンダーのスランプに陥っている。
自分の症例を教授とdiscussionするが、最近はいつも、アンダーだろ、とか、拡大し過ぎ(と私は思わないのでこれに関しては反論をいつもしているが)じゃないかとアドバイスを受ける。

このtooth projectでも機材の不備やまあこれは自分が悪いのだが、積極性が無いが為に洗浄液を手に入れられず、シャイな私は洗浄そのものを水で行なうかもしくは面倒でスキップしてやってしまったものがあり、2mmくらいアンダーになってしまったものが何本かあった。それと最近の臨床でのアンダーの結果をリンクさせられてしまい、Akiraはいつも同じミスを繰り返している。一体どのようにハンドでの器具操作を行なっているのか?、ハンドでのシークエンスはどのようなものか?、洗浄液はちゃんと器具交換ごとに使用したのか?、超音波で洗浄したのか?Ni-Tiを無理に押し込めたのではないか?、Apex locaterに問題があるのではないか?、patency fileしてるのか?(director間でも意見が分かれている。教授のロヘスは反対派。だが、DDSのdirectorのリービィ先生は賛成派。その他は半々)に質問が集中した。

それに対して一つ一つ答えていかねばならないので約2時間くらいプレゼンにかかってしまった。

プレゼン後、そのプレゼンがどのようなものだったか評価があるが、

”作業長の設定に多少甘さがあるものの、論旨が明快で準備された非常に良いプレゼンであった”との評価を頂く事ができた。

これで少しでも日本人の自分がこのプログラムに採用されているという爪痕を残す事ができたのではないかと少しホッとした。

そして実はもう一つ、これはエンドと関係なく議論が白熱したのが術前にインレーが入っている抜去歯牙だ。





これを見て彼らは一様に驚いていた。
日本人ならこれはおなじみの銀歯であるが、彼らは驚き私に質問攻め。。。

『これは一体何なんだ?』
『クロムか?この材料の組成を教えてくれ』
『いやこれはアマルガムだろう。。。でもこんなアマルガム見るのは初めてだ』
『マージン設定の位置がすごく縁下でしかも無茶苦茶不適合だな』
『これは直接法か?間接法か?』
『これはクラウンの適応症ではないのか?』

正直、私はここに質問が来るとは予想していなかった。
お陰で
-これはギリギリ貴金属だ→嘘付け!
-いや、これには12%金が入っていてあとは・・・(覚えていないので言葉に詰まる)→いやこれはノンプレシャスメタルだろ!ゴールドが入っているはず無いよ(笑)
-アマルガムは日本ではあまり使用されていなくて→何でだ?
-水銀の問題があって...→なんでアマルガムで人体に問題が出るんだ?政治的な問題で使用禁止なんだろ?(いやそうじゃないですけど・・・)
など質問攻めに合って答えに窮してしまった。。。

最後に教授が笑いながら、
『このような金属材料が口腔内に入っていると言う事自体が信じられないし、考えただけでお恐ろしい・・・まあ兎に角、go ahead(次のスライドに行け)』
との一言で、この問題に終止符が打たれた。

日本の皆さんはこの反応にどう思うだろうか?
一歩外を出ると、我々に取っておなじみのこの材料がこのような驚きを持って彼らには(日本以外の大多数の国:韓国、エジプト、スペイン、アメリカ、カナダ、ブラジル、インド、サウジ、クウェート、アルジェリア、キューバ)映ってしまっている。と同時に、何だかしてはいけないことをしている日本人歯科医師の代表みたいな後味の悪さが残った感も否めない長い1日だった。


Restorability check, 誰がやる?Endodontists? GP or Prosthodontists?

患者さんは60代のメキシコ人女性。英語が喋れない。
主訴は#11のPFM(連冠)が脱離しそう。それに伴い#11に冷水痛と温熱痛を少し感じるとのこと。
口腔内には#6-7-8, #9-10-11のPFM Crownが連冠で装着されていた。
臼歯部は崩壊し、前歯だけで咬合。
その結果、フレアアウトを起こし若干の動揺を来している。

レントゲンを撮ると、#11は既に根管治療がなされており、レントゲンでも分かるくらいの縁下カリエス。根尖病変は僅かだが存在した。ただ打診も圧痛も無い。ポケットも健全。#9も既に歯内療法処置済み。病変は無い。打診も圧痛も無い。#10のみが唯一生活歯。また#12は全くの健全歯であり各種検査に対してWNL。自ずと私の疑いの目は#10に向けられた。

#10は冷水痛にも温熱痛にも反応無し。EPTには反応。その後繰り返し冷水痛試験を繰り返すが、やはりNo reactionだった。
なお、PFMは唇面が破折し、マージンは下がり、目でもつぶって形成したのかと言うくらい不適合マージンで、既に歯根が大部分露出していた。
打診痛、咬合痛試験には反応無し。ポケットは#10の近遠心のみ4mmだったが、動揺が1〜2程度あった。また圧痛を感じた。ただこれは疑陽性の可能性が高い。なぜなら健全部位でも痛い!と言ったので。

私の診断(#10)は歯髄診断はNormal根尖部歯周組織の診断もNormal。
#11は歯髄診断がPreviously treated, 根尖部歯周組織の診断はAsymptomatic apical periodontitis.
確かにReferalがいうように、#11はブリッジを遣り替えるなら再治療した方がいいだろう。
しかし、それ以前にrestorabilityがあるだろうか、私にはかなり疑問だった。
#10に関してはReferelの要求ではないので何も言えない。

もしも彼女がブリッジを遣り替えるのなら、##11の再治療(但し補綴治療が可能であれば。)。#10は再度歯髄診の上、生活性が担保されるならやはり経過観察。便宜抜髄を希望すれば、抜髄。
#11の予後はquestionableもしくはguarded。要は歯内療法を行なう前に、Restorability checkが必要な症例なのである。

しかし、レントゲンを見る限りは保存するには複雑な治療が必要と考えられる。
たとえクラウンレングスニングやエクストルージョンを行なっても、臼歯部が無いので早晩クラウンの破折を繰り返すだろう。もし治療するなら相当複雑で長期的な治療が必要である。私はそのことを彼女に説明した。するとこのメキシコ人の女性は複雑な治療を希望された。しかし私はエンドレジデントであるので、補綴計画には関知しない。私がやるべきことは、#11が保存可能なんであれば再治療だし、#10の便宜抜髄が必要ならそれをするまでだ。

ここに一抹の侘しさを感じたのは、まだレジデント1年目だからだろうか。
彼女の主治医はもっと包括的な良い治療計画が立てられないのだろうか?とつい思ってしまう。
少なくとも私なら、臼歯部の咬合を早く何とかした方がいいと思うが、Referalはそこはおかまいなく、#6-7-8-9-10-11のPFM Bridgeを再製したいようだった。

歯内療法専門医が一番忸怩たる思いで症例をこなさないと行けない場合はこういうときだろう。エンドの予後はご存知のように、かなり高い。
しかし、治療全体を決める司令官は補綴医(もしくはGP)である。
我々はその意味では、下請けである。
しかしエンドの予後は高いのに、修復の予後が低ければ治療が上手く行かなかった時に失望するのは患者さんだろう。こちらまで恨まれかねない。

その意味でも、エンド治療の前のカリエス除去およびRestorability check(修復治療できるかどうかを確認すること)は非常に重要なステップになる。
この仕事は、通常補綴医が行なう。歯内療法専門医の範囲外である。
我々は補綴医が修復可能と踏んだ歯に対してのみ、歯内療法を行なう。Restorabilityの無い歯には修復治療はおろか、歯内療法は行なえない。Referalにはその意を電話にて報告し(ようとしたが私の英語が頓珍漢でFacultyに代わりに説明してもらったのだが・・・)た。

この患者さんを通じて将来の開業時の在り方を考えさせられた。
エンドドンティストとしてRestorability checkを行なうべきか、それともそこは自分の仕事じゃないとGPや補綴専門医に任せるのか。もし自分でcheckを行なってその歯が短期で補綴的に失敗した場合、その責任の一端は自分が担わなければならない。となると、補綴治療をしない私にとっては責任の範囲を超えてしまう。日本での慣習がまだ私に強く残っているので、つい仮歯とかを作って治療してあげたくなる衝動に駆られるが、逆に保存が怪しい歯を無理矢理エンドして補綴医がこんな状態じゃ補綴できないよ!となるとそれまた問題だ。
事実、こちらでもそういう問題が非常に大きい。つい先日もエンドはできたが補綴に回されて補綴科のレジデントがこんなのどうやってクラウンするんだよ、コアがグラスアイオノマーだけどどうみてもやるならメタルポスト&コアだろう、何考えてんだエンドのレジデントは!というようなもめ事があった。
エンドのレジデントが縁下カリエスの歯に無理矢理グラスアイオノマーで隔壁を作り、sのままそれを全て除去せずに一部レジンで築造した為、彼らがクレームを付けたのだ。
しかし私からすればそれは至極もっともな話である。ラバーダムがかからない歯に無理矢理レジンのコアやファイバーポストを立てても脱離する。ましてやグラスアイオノマーでは。。。このような状態で脱離したらクラウンごと取れるので、責任は補綴医が取らなければならないが彼らにしてみればいやいや(ポスト)コア立てたのエンドでしょう、と言う話になる。

私は今でもあまりレジンの築造を信じていない。ラバーダムが容易にできる歯であればよいが、そもそも前歯は別としてポストコアを立てなければならない症例はラバーがかなり怪しい感じでしかかからない。防湿が不完全になる。こちらでもそうしたことが多々ある。私は保存不可能。でもfacultyはいやいや保存可能でしょう!と話が噛み合ない事が多々ある。でもメタルコアだと印象しなければならないので自ずと防湿はできないし、仮歯も相当不完全で細菌漏洩が多くなる。こんな時、CAD/CAMでメタルコアを即時で作れればどれほど便利だろうと個人的には思う。

以上を鑑みると、現時点ではやはり私はRestorability checkに足を突っ込むべきでないなと言う気がする。自分で責任を負えない事までしなくてはならなくなるからだ。
せいぜいやっても、隔壁、コアの築造までだろう。ポストコアをたてる勇気は今の私には無い。それは補綴医でやってね、と言う話になる。(但し、前歯は別。)

こちらに来てもう10月。あっという間に5ヶ月目を迎える。日々、プログラムを修了した後の自分のプラクティスの在り方を考えながら臨床に取り組まなければならないと言う気持ちを再確認させられた1日だった。


2014年10月5日日曜日

上顎第2小臼歯、3根管。

先週の患者さんでロシア人の20代女性の再根管治療があった。妊娠4ヶ月。referral(外部)からの紹介で2時間半かけてUSCまで来院してこられた。

主訴は#13(左上第2小臼歯)の鈍痛。壊死歯髄の根管治療後激痛で夜も寝れなかったという。今は落ち着いている。

既に前医が根管治療に着手しているが根管が極端に湾曲しているとの事でEndoのresidentクリニックを受診された。

紹介状には、#13の根管治療宜しくと一言だけ書いてあった。。。

既に打診や圧痛は無い。ポケットも正常。動揺も無い。

レントゲンを撮影。根尖部に大きな透過像がある。ただ根管がいつもと違う。正方線では1根管に見えるものの、偏近心では根管が複数あるように見えた。

診断を行ない、ファカルティに根管が複数ある可能性を説明。レントゲンを見せるとこれはいいケースだ!と患者さんの前でにこりを笑うKallman先生。

麻酔してラバーダムをかけテンポラリーを除去すると根管は激しく汚染されていた。そこをヒポクロと超音波で徐々に奇麗にしていく。するとぱっとみ2根管性であったが、イスムスが見えたため、その除去に追われる。格闘する事30分、ついにイスムスはなくなり、やはり何度見ても私には2根管性にしか見えなかったので、ファイル試適して偏心撮影し教授のロヘスに見てもらった。するとやはり明らかにファイルの入っていないもう1根管がPAで見えるのである。どうやらこれは頬側根管が途中で2つに分かれるパターンのようだった。3根管である。私は恥ずかしながら生まれて初めて上顎の小臼歯で3根管を見た。教科書や論文では見た事ある3根管についに出くわすとは!しかも私が触知できたこの頬側根管(恐らく頬側近心根)はファイルをベンディングしていかないとApexまで到達しない。なんと遠心口蓋方向にフックしているのである。ちなみに口蓋根は根尖部の吸収が起こり、顕微鏡で根尖部が確認できる。ただ頬側は#8のC+ Fileでようやくネゴシエーションさせて終了になってしまった。

実にいいケースであったのだが、彼女は今月出産でロシアに帰るという。
ロシアは空気が悪くて寒くて・・・ここが一番だけど・・・やっぱり実家が一番安心できるから。。。と少し神経質な様子が伝わったが、ご主人の年齢が50代後半である事を考えると何となく彼女の事情が把握できてしまったが、私にとっては大事なケース。1年後に連絡するから必ず来てね、と伝え水酸化カルシウムを貼薬し、コンポジットレジンで仮封?して終了した。

治療後、今後の方針を教授のロヘスと相談。
まず次回CBCT撮影。そして根充。
もし半年後に治癒しなければ意図的再植を行なうように、と指示された。
根尖部が上顎洞底線を超えているからだ。但しこれは2次元での評価のため、最終的にはCTでの判断になる。
いずれにしても、再治療が奏功するかどうか経過を追わなければならない。
こうした難しい、稀なケースに出会えるのも、大学病院の歯内療法科に在籍しているからこそだろう。

さて、今更だがこちらでは歯の番号を#1〜#32で表す。
乳歯なら、a〜tで表す。

つまり例えば成人なら以下のようになる。



#1,16,17,32がそれぞれ上下左右の親知らずになる。

また小児なら、以下のようになる。




一番ややこしいのは混合歯列で、a,bやらi,jなどが#19,30などと混じるのでそれはもう混乱する。日本式のD,Eや#11,36などのFDI表記の方がその番号を見ただけで歯のイメージがつきやすいのだが・・・







2014年10月1日水曜日

Protaper Gold for Maxillary molar root canal

プロテーパーゴールドを昨日初めて治療に使用してみた。

患歯は#2。作業長がDBが25mm、Pが24mm!もある長い歯。しかも湾曲度合いが強い。

プロテーパーゴールドは、以下のようなサイズからなる。

















テーパーはvariable、つまり単純にテーパーの分ずつ大きくなるわけではない。
Protaper Universalと同じ規格、つまり同じペーパーポイントとGPを使用できる。
詳しい拡大率などはよく分からない。Dentsplyに聞いても教えられないとの返事。

西海岸派のendodontistとして著名なC.Ruddleのサイトに詳しい説明があった。SXはD6で#50, D7で#70, D8で#90, D9で#110。これはGatesのサイズと一致する。

今までとのProtaperとの違いはその弾性だろう。箱から取り出すだけでややぐにゃっと曲がってるので最初は少しビックリする。また使用する時に曲がってるのでくるくる回って根管に入りにくい。(曲がったgatesを使うみたいなイメージ)

シークエンスは基本的にはフルレングステクニック。
ストレートラインアクセス、グライドパスを#10,15までしたらS1, S2, F1,F2,F3, F4…と続けて拡大していく。SXはストレートラインアクセスに使用する。

ただ実際使用してみて分かった事が、例えばF2が作業長まで到達しないとまたF1に戻らなければならない。F2(#25)のテーパーが販売されているF2より小さいものが無いため、非常にめんどくさかった。ファイルを行ったり来たりしなければならずこれではハンドファイルと何ら変わらない。
もう一つはテーパーがvariableなので、多社のGPが使用できない。つまりdentsply Protaper Gold(もしくはUniversal)のシステムを永遠に使わなければならない。
歯内療法専門医が求めるファイルは、様々なサイズとテーパーがあるもの程望ましい。そういうものほど、汎用性が高いからだ。

しかしProtaper Goldのように#20は.07しか、#25は.08しかファイルありません!と言われると非常に使いづらい。。。まだ1度しか使用していないが、これが将来のメインファイルに躍り出る事は多分なさそうだ。やはりRaCe(Endosequence)に一日の長があると言わざるを得ない。ああいう切削感が強いもので種類が豊富なものが我々が好むファイルである。(こちらでMtwoを使用してみたいのだが、どの会社からも買えない。)

思うに、このdentsplyのラインナップはGP向けである。特にWave-1などはその最たるものだろう。(ちなみにうちのレジデントでWave-1を使用している者は一人もいない)
ただレシプロだとファイル破折が優位に少なくなるという論文もあり、個人的には面白いと思うがこちらでレシプロのシステムを採用しているFacultyも殆どいない。

ただまだ1回しか使用していないのでもう少し使用してみて結論を出したいと思う。何しろ安いのでこれでもか!と購入してしまったので。。。

こちらにいる2年間で色々なファイルを使用してその特性を体に覚えこませ、自分に一番会ったものを将来選択したいと思う。