2015年1月31日土曜日

Robert Salehrabi、来る

USCのエンドを代表する、AAEのRecommendation speakerの一人、Dr. サララビを日本の歯科医師の方はご存知だろうか?

かの有名な、根管治療した歯の8年後の生存率を調べた論文の著者である。

イスラエル人の彼は、USC Grad Endoを2004年に卒業。

現在はデンバーで開業している。

そんな彼がUSCに講義しにやってきた。

テーマは破折の診断、予後、そしてマイクロスコープを用いた”現代の”治療法について。


結論から言うと、私が今まで聞いた講演の中でもベスト3に入るくらい感銘した。

非常にorganizedされたプレゼンで、テンポが良く、臨床例が外科治療を含めて非常に豊富。診断と実際の治療が実にうまくリンクされていた。またレントゲンの精度も非常に高く、口腔内写真も綺麗で見やすかった。

そしてやはり、ラスティンの影響を受けているせいか?彼の術式や紹介医に対する考えは実に保守的である。どこかで習ったことと似た?コンセプトを持っていた。

紹介医に対しても診断上エンドが必要なければ断固としてしない、いわゆるお金のために不必要な根管治療はしない、という考えであり、GPからの患者の不適合補綴物に対しても容赦なく紹介元にツッコミを優しく入れて除去する。

私には、彼は原理主義者のように映った。

この日の午前中のレクチャラーが何でもかんでも必ず、CBCTが今後は必要!という商売っ気ありありの方だったので差がひときわ大きかった。

レジデントからのツッコミ&質問も実にしっかりとそして確信を持って返答する。

写真通りにかなりの威厳と風格を感じた。

また彼の英語は実に聞き取りやすい。

実は渡米して初めて最初から最後まで、雑談、ディスカッション含めて内容が理解できた。

これは英語が進歩したということだろうか???

それはさておき今年のシアトルのAAEにもしサララビが出講するなら、ぜひ講演を聞かれることをお勧めする。ただその時は、携帯電話はマナーモードかオフにしていた方が良いだろう(笑)

2015年1月27日火曜日

抜髄するかどうか決めるのは、貴方です。

50代女性。
学外からの紹介の患者さん。
主訴は、”かかりつけ医が#30に修復治療を行うので、修復治療前に#30に根管治療が必要かどうかチェックしてほしい”というものだった。

痛みおよび痛みの既往はない。

コンポジットレジン充填がなされているが、大きなものではない。

レントゲン初見からは根尖病変や特段言及すべきものの存在は認められない。

歯髄診査を行うと、Cold testに対して陰性だった。

しかしながら、EPTには反応。

打診も圧痛も動揺もないし、ポケットは正常範囲内。

診断は歯髄も根尖部歯周組織もまるっきり”Normal”だ。

ただ困ったことに、Normalだから修復治療前に根管治療がいらないのか、いやNormalだからこそ根管治療を修復治療前にしておけばHigh success rateなのだから必要なのかどちらなのかを私が決めることができない。

紹介状には#30チェックよろしく!としか記載されていないので、どこまで踏み込んでいいかわからない。

ただ、この歯の歯髄の状態はおそらくNormalである。

従って、私は紹介元に

”歯髄、根尖部歯周組織の状態は健全である。なので根管治療は必要無いと思われる。しかしながら、修復治療後には不快症状(知覚過敏症状)が出たり、歯髄が壊死したりする可能性があるので、(あなたや患者さんが)必要であれば、根管治療を行います。”

と伝えた。

しかし、この健全な歯を抜髄してまで修復治療を行うかどうかを決めるのは、私ではなく修復治療担当医であり、患者さんである。

私に必要性がないか否かをチッックしてくれと言われても、現時点では健全なので必要無いというような官僚答弁的な答えしかできない。

Restorabilityをチェックすることもそうだが、このように便宜抜髄をするかしないかを決定するのも、補綴を行う人の仕事である。

私個人の意見としては、口腔内の実際の歯牙の状態(小さなレジン充填のみ)またブラキシズムの可能性が高いこと(歯牙咬合面が全顎的にに磨耗)、なぜこの歯に補綴治療が必要なのか?は理解ができなかった。

仮説だが、おそらく神経を取らずに補綴治療を行うのであれば、
①術後疼痛
②術中のプロビジョナルレストレーションの破折による知覚過敏
③最終補綴物装着後の歯髄壊死
などが考えられる。
また、歯髄壊死時に病変を伴っていれば、根管治療の成功率は下がる。外科が必要になるかもしれない。

また抜髄して補綴治療を行うのであれば、
①根管治療自体の成功率は高いが100%の成功率ではない
ことがデメリットとして考えられる。

上記2つの道のどちらを取るかは、今日検査してたとえその歯が健全であっても、補綴治療が開始されればすぐに状態が変わっていく。

なので、今日の検査(わざわざUSCのGrad Endoに来てまでの検査)にどれほど意味があったのか、正直私には?マークだった。

上記の出来事をそのまま日本のプラクティスに当てはめることは難しいが、1つ言えることは我々は補綴治療前の歯髄の状態ならある程度目安をつけれるが、一度補綴治療が開始された後の歯髄の状態まで予測はできないということである。

歯冠形成そのもの、術中のエアー、ハンドピースからのスプレーの有無、プロビジョナルレストレーションの適合度以外にも様々な要因により歯髄には炎症が起きる可能性がある。

それを予測することは、神でも不可能である。

ただ、我々はどうしても防御的にならざるを得ないので、紹介元の返事にそのことをきちんと記載しなくてはならない。

”あんたが歯髄が健全で大丈夫だから抜髄せずに治療したのに、炎症・感染が起きたじゃやないか!”と言われないようにするためである。

いやはや、こういうときに本当に自分はどこを向いて歯科医療をしているんだとつくづく思う。

2015年1月25日日曜日

Electric Pulp Test

50代男性。

#14に激しい痛みがあり、レントゲンで明らかに根尖病変があるのにもかかわらずElectric Pulp Test(以下EPTとする)で陽性になったものがあった。(ちなみにCold Testは陰性。)
レントゲン的には近遠心にアマルガムが充填されており、深いカリエスなどの初見はない。

レントゲンで病変らしきものが見られるのに、歯髄が生活しているということはNielsen (1995) のCase reportでも示されているようにまま見られることである。

なので、レントゲンのみの診断はもちろんできない。
従って、我々はクリニックで日々この歯髄診査というものを行っているわけだが、しかし今回は合点がいかない。

なぜ歯髄が壊死している(と考えられる)のに、EPTがPlusになるのだろうか?
そしてそもそもEPTを臨床的にどのように捉えるべきだろうか?

多くの方が既にご存知のように、EPTは電気刺激に対する歯髄神経(A線維。主としてAδ線維)の反応を見ているに過ぎない。真の意味で”歯髄が生きている”ということは、”歯髄に血液供給がある”ということであり、EPTでそれを確かめることはできない。

またその診査結果は患者さんが痛いとかちくっとするなどといった主観的なものである。つまり、偽陽性や偽陰性になりやすい。

しかし、EPTは未だに重要な検査方法であり適切に用いれば歯髄の病態に対して有益な情報をもたらしてくれる。しかも安全である。(かつて犬withペースメーカーにEPTしたらペースメーカーが故障という実験があった。しかしこの当時のペースメーカーが現在のものと比べて精度が低いこと、またその後の研究では現在のペースメーカーにEPTが影響を及ぼさないことがわかっている。)

しかし、EPTは1本の神経線維に対する研究を基にして作られているので、歯の神経のように多くの神経が存在するとより低い電流でまた少ない数の歯髄の感覚神経に対しても反応してしまう。これが歯髄が壊死してもEPTに反応する(偽陽性となる)原因の1つである(Narhi et al. 1979, 1982)。また歯髄神経線維と歯周組織神経の閾値が同程度であるため、歯髄ではなく歯周組織の神経がEPTに反応してしまい偽陽性となることもある (Narhi et al. 1979)。

また矯正用バンドやクラウンが入っている歯にEPTは行えない。理由は電流が歯周組織や隣の歯に流れて患歯が正しく診断できないからである。(Rowe & Pitt Ford 1990, Myers 1998)
もしクラウンや矯正ワイヤーが入っている歯にEPTするなら①クラウンのマージン下の歯牙に接触させる②クラウン間はプラスチックストリップスを挿入する③矯正用ワイヤーやバンドは除去する必要がある。

検査を行うには乾燥も必須である。電気が歯肉に流れてしまいそれが偽陽性を呈する原因となるからだ。

また、隣在歯にメタル修復がなされている歯もEPTにより電気が隣在歯に流れていくので偽陽性を生む (Myers 1998)。こういう場合もやはりプラスチックストリップスを両隣在歯に挿入するべきである。

またDummer et al. (1980)によれば、歯髄壊死により生じた分解産物がまた電気伝導性を呈し、それにより隣接する歯髄組織に電気刺激を伝えるという。

またPeters (1994)によれば、複根歯の場合、根の中に壊死していないものと既に壊死しているものが混在している可能性があり、その際、EPTが反応することがある。これも偽陽性の原因である(ただし臨床的にはわからない。)

以上を勘案すると、どうやらEPTが偽陽性になってしまう場合は以下のようなことが考えられる。

①乾燥が甘かったため、歯肉&歯周組織が反応
②(壊死していることが疑われる)患歯に歯髄組織が残存
③歯髄壊死溶解物に電気伝導性があり、それに近接する歯髄に刺激を伝達した可能性
④患歯隣接面に金属修復があり、そこから隣在歯に電流が漏洩した可能性
⑤複根歯で壊死している歯髄とそうでないものが混在

私の偽陽性もおそらく、この①〜⑤の中のどれかもしくはすべてが原因だったのかもしれない。

またこの逆で、EPTが陰性だと、 全部壊死の可能性が72%、 部分壊死の可能性が 25.7% 。それゆえEPT陰性の歯の場合、97.7%に根管治療が必要という情報 (Seltzer et al. 1963a)からすれば、EPTは歯髄の壊死を検出する能力は高いと言えるが、EPTのsensitivity (感度:病気のものから病気のものを検知する能力、つまり壊死している歯を検出する能力)92%、Specificity(特異度:正常な歯から正常な歯髄を検出する能力、つまり正常歯髄を検出する能力)75%、Cold testのsensitivity75%、specificity92%であることからも、EPTだけではなく、Cold testを相補的に組み合わせて検査しなければ、歯髄の生活性の有無のチェックは困難だということがわかる。(Weisleder R 2009 JADA)

しかし、時にはEPTがあまり有効でないこともある。
①小児で根未完成歯の場合
②外傷直後の歯
③矯正中の歯
④痛み止めを服用している場合
である。

①は外傷を起こして神経が損傷してから機能回復するまで(baselineに戻るまで)時間がかかるため、また感覚神経の機能が喪失したままになっているが、血流はそのまま確保されている可能性があるためと言われている。
②は根未完成の歯にはラシュコフ神経叢が完成していないからである。歯牙が咬合に参加するまでは神経は象牙質、象牙前質、象牙芽細胞まで到達していない。従ってEPTよりもやはりCold testのほうが適していると言える。


③は矯正をしている患者では歯周組織や神経線維が変化を受けるので(メカニズムはよくわかっていない)、EPTに対する閾値が上がる。(矯正終了後9ヶ月後まで続くという)
したがってEPTの結果を注意深く考える必要がある。ちなみにやはりこの場合、Coldテストのほうが信頼性は高い。
④は痛み止め(NSAID、アセトアミノフェンともに)を服用していると、EPTに対する閾値が上昇するからである。

とはいえ、かの有名なPetersson(1999)の文献から考えても、EPTはCold testとともにその生活歯髄を特定する割合が80%を超えることからも、やはり今でも変わらず歯髄生活性検査の王道と言えるだろう。


また、余談になるが、Hot tooth(歯髄炎)の歯に麻酔が効いているかを調べる際も、EPTは(Coldよりも)有効である。麻酔をしてEPTで反応がなければ、その歯には麻酔が効いているとの間接的な証明になるのでこれは試してみる価値は十二分にある。(特にイマージェンシーで)

などと偉そうに書いているが、当然私もロヘスに突っ込まれて答えられなかったら調べたまでのことであり、皆さんも同じような疑問や場面に遭遇することが多いと思われるのでブログで取り上げてみた。

診断とは、非常に奥深い。しかし、色々と考えると非常に楽しいものである。

まだまだ、専門医となるには診断力に欠けていると言わざるを得ないと感じる。

Boardに対する試験対策やケースプレゼンテーションも始まった。
いよいよこれからが、大学院生活も本番だ。

USCで用いている、EPT。グローブをはめて使用できるので使い易い。約10万。サイブロンデンタルから発売されている。

2015年1月21日水曜日

Hot Toothの治療

ここ最近は学生(DDS dentist)からの紹介の患者さんが多い。

今日来られた患者さんも学生が紹介した患者さん。

60代男性でなんと返還前後の沖縄で海軍に所属していたというガタイの強烈にいい男性。

その風貌に似つかず今はセラピストをしているという。妹さんがUSCでナースを長く務めているとのことで俺はUSCが好きなんだよ〜とおしゃべりがとにかく大好きな方。しかし、久しぶりにいい患者さんに巡り合った気がした。と同時に最近は治療のことだけじゃなく雑談の内容がだいぶ聞き取れるようになってきた。

さておき、学生からの紹介なのでどのような治療をしたのか事前にPCのカルテでチェックをしておいた。

1週間前に#31(右下第2大臼歯)を抜髄している。
抜髄だけしているので、根管治療はGrad Endoでということだった。

しかしである、患者さんの主訴は冷たいものに強烈にしみるという。
冷たいものを飲んだり、食べたりすると天井に飛び上がるかというほどしみるという。
痛みの程度を1~10で表すとMaxの10。
いわゆるこういう状況の歯をこっちではHot Toothという。

痛みがひどい場合はこういう呼び方をするが、こんな時に冷水痛試験をしなくてはならないのは本当に辛いものだ。
飛び上がるくらい痛いと言っているのに、冷水刺激を与えるというある種拷問のような検査・・・

案の定、冷刺激にひどく反応があり痛みは持続的(Lingering pain)なものであった。
EPTにも反応した。

打診や咬合痛、圧痛はない。ポケットは正常。動揺なし。

隣在歯は正常反応。対合歯にも問題は見られない。

しかし、ちょっと待て。1週間前に抜髄したんじゃないのだろうか??
レントゲンを見ると歯髄近くまで仮封してあり私は最初、ああ抜髄してクロルヘキシジンスポンジ貼薬して仮封したんだなと認識していた。

しかしである。なぜ抜髄した歯が冷刺激が++でlingering painなのだろうか?

患者さんによれば隔壁が取れてから急にしみ出したという。

余計に混乱した。

もしかして、見逃されていた根管があり、それによりextripationできず、その為冷水痛を感じているのではないか?と私はfacultyに自分の意見を述べともかく急性症状があるため、即加療となった。

伝達麻酔(カルボカイン)を2本行い、ラバーダムを装着。
仮封を除去し、クロルヘキジンスポンジが登場するのを期待したが・・・なんと仮封を除去したが歯髄近くまで窩洞形成されているだけで、まだ抜髄はできていなかったのである・・・。

つまりこの患者さんの痛みは歯髄近くまで形成して仮封が一部取れたため起きたものだったのだ。。。

なんという拷問だろうか。そりゃあしみるはずですよ。。。

天蓋を除去した瞬間にこの100キロ以上はあるだろう元軍人は痛みでユニットから飛び上がった。

しかしどうしても髄腔内麻酔が嫌いな私は伝達麻酔(キシロカイン)をさらに2本追加。すると痛みは治まった。

しかもこの患者さんのMB, MLが非常に近心に位置しており根管口部は狭窄著しかった。そして出血が尋常でないくらい著しい。。。しかもこの時、私の滅菌したNi-Tiのハンドモーターが誤ってゴミ箱に捨てられるという悲劇が発生し(治療後に発見)、ハンドファイルでextripationのみを行い、Ca(OH)₂を貼薬して終了した。

先日も似たような事があったが、いったい誰がチェックをしたんだろうか?
いや確かに、学生の治療室にはマイクロスコープはないのでよく見えないというのは同意する。しかし、今回は根管が見つからないどころか窩洞形成を歯髄近くまで行いキャビットを詰めているだけである。

どうやら私はここではNoteと言われる学生が書いたカルテを信じてはいけないのだな、ということを身をもって学んだ気がする。

しかし、下顎の伝達麻酔は非常に有効だ。
日本にいるときは伝達麻酔は危険というイメージがなぜか強かったが、これほど有効なものはないと思う。

というわけで何とか修羅場で日々奮闘しています(笑)。

2015年1月13日火曜日

木を見て森を見ず。。。

新年明けましておめでとうございます。
こちらは1/5よりクリニックが開始。
今学期は授業がliterature reviewしかないので、それ以外の時間はすべてクリニックに当てられる。
これが自分が一番望んでいた形である。

正直、基礎系や統計とかはもういい(笑)
臨床に即さない、直結しない講義は退屈だしテスト勉強はひどくつまらない。
これが、文献の年数や著者、研究デザインなどをサマライズしろと言われればそっちの方がよっぽど楽しいし楽だ。覚えるのもなんの苦もない。
またこの年齢で基礎系を一からやり直すというのも非常に難しい・・・
留学には年齢が関係ないというが、やはり脳の機能低下は避けられない気がした。
時差ぼけが延々続くような。。。

それはさておき、今日は学生が治療した患者のカバーということでナイトクリニックで1人残った。今タームはナイトクリニックは極めて人気がなく、いつも1人か2人という状況である。

韓国人の女子歯学部生が治療した#19の治療の引き継ぎが今日の私の治療だった。
彼女曰く、
"4根管を見つけた。しかし最後のラスト1根管(ML)をゲイツで拡大していたらパーホレーションを舌側に起こしてしまった。"

つまりそれは、ストリッピングパーホレーションってこと??と尋ねたが、よくわからない・・・とにかく助けてくれ!ということで引き継いだ。

治療前にはPFMがテンポラリーで装着されていたようだが、2、3日前に脱離。
デンタルを撮影すると既にほとんどの歯牙が残っていない。
この時点で既に抜歯だろ、と突っ込んだがカバーすると患者に学生が説明しているので、伝麻後とりあえず伸びきった近心の歯肉をすべてダイヤモンドバーで切除(電気メスやレーザーなどといった高尚な道具はここにはないのだ)、ビスコスタッドで止血して隔壁をGIで形成した。

前歯部用クランプを使用してラバーダムを装着し、チャンバーオープンするも学生が窩洞をすべてGIで充填しているのでなかなかすべてを除去できない。。。

すべてを除去すると、近心頬側に赤いキャビットが充填されていた。


これを除去し、注意深く次亜塩素酸ナトリウムやEDTAで洗浄しパーホレーション部が明らかにされた。


パーホレーションをリペアするだけなら何てことはない。
それは私にとっては何の問題もないことだ。

しかし、もっと重要なことはこの歯にそのようなリペアをして良好な予後が期待できるか?ということである。

なぜなら、学生は4根管見つけた!と言っているが、2根管しかない。しかも彼女は正確に言えば1根管しか見えていなかっただろう。なぜなら天蓋がほとんど取り残されていたからだ。

また彼女が4根管目だと思ってゲイツを入れたのは根管ではなくて、髄腔壁だった。
そう。彼女は力技で横壁に人工的に穴を開けたのだ・・・

しかもこの学生は介助にもつかず、勝手に先に帰ってしまった。(治療後知った)
厳しいことを言えば、彼女は歯科医師としての倫理観が低いと言わざるを得ない。
患者はモルモットではないのだ。プリーズと頼んでおいて自分の患者をケアせずに先に帰るとは・・・
また、学生であればいかにしてこのパーホレーションを修復するかやいかにしてそれが可能か否かを診断していくかを直接学べるいい機会なはずである。
しかし、彼女は帰っていた。

またさらにまずいことには、根管をなんとか見つけようと奮闘したのはいいものの、逆に歯質を大きく失ってしまい、あわや髄床底もパーホレーションを起こしそうであるという状況になってしまっている。

この状況下で私はした判断は、まずはパホの修復を行う前に見逃されている2つの根管が見つかるかどうか奮闘することだった。
しかし、faculty2人の力を借りたが、見逃された根管を見つけることができなかった。

ここにおいて、この歯の状況は
①残存歯質(フェルル)がほとんど無い
②見逃された根管が2根管あり、石灰化があり見つけることができない
③パーホレーションが存在
ことから、エンドの予後Questionableと判断し抜歯が第1選択となる旨を患者さんに伝えなけばならなくなったのである。

しかしここからが問題で、彼女はまさかの抜歯宣告に気が動転してしまい涙を流し、なんでこんなことになったんだと何度もうったえてきた。

しかし問題はこのPFMが脱離した時からレストラビリティが疑わしいということであり、これはエンドの治療をする前に本来は患者に伝えるべき話であるが、どういうわけだか抜髄してエンドに移行してしまい、今回の悲劇が。。。

さらに悪いことにはこの歯の治療が先月終了しているにもかかわらず脱離し抜髄、さらにはパホを起こした挙句、結果抜歯に至っているという点である。

レストレーションを行う前に、少なくともカリエスをきちんと取ることはしてもらいたい。いったい誰がGoサインを出したのか、謎だ・・・。

この歯を無理やり根管治療すればMTAでパホもリペアして根管治療も完了できる。が、修復は不可能である。

最終的に、この歯の治療の代替えをなんらかの手段で行うことを約束し、後日この学生と学部長、患者でメイクアッププランを考慮するという重い話になってしまった。

私は日本にいるとき、こういう主訴でこられた患者さんを数多く見てきた。
彼らの多くは、前医とコミュニケーションがうまくいっていないか、ぞんざいに扱われた(無論それは患者さんだけの言い分だが)ために転医していた。

もう少し、患者さんの事をケアしてあげれたら、こういう事態は避けられたかもしれない。何れにしても残念な症例だった。

これこそ木(エンド)を見て、森を(修復できるか否か)見ず。
新年一発目のナイトクリニックはレストラビリティと学生に振り回された1日だった。