2015年3月11日水曜日

Board certificationへの道

USC Grad endoではAmerican Boradの試験は一応、任意ということになっているがここ5年間はすべてのレジデントが受験し、すべてのレジデントがパスしている。



またUSCのGrad endoのobjectivesの中の一つにBoard認定の専門医になることが定められているので、受験は任意という名のmandatory(義務)である。

昨日も2年生レジデントがカナディアンボードの試験を受けてきた。カナディアンボード試験はアメリカンボード試験よりも簡単であると言われており、自信のないレジデントはまずカナディアンボードの受験を勧められる。

上級生に聞くとボードの試験対策は前の年の12月の冬休みからで十分だよ的な話が多いが、私の場合は言語にハンデのある日本人なのでこれは完全に当てはまらないだろう。

このボード試験で厄介なのが、これを勉強しましょうという定め、決まり、範囲が全くないということだ。つまりエンドに関わるすべてが試験範囲ということになる。

しかし、実際はいろいろな意見がある。

私が聞いただけでも、Pathways of the pulp, Dental pulp, Inflammationはまずはボード試験への入り口だという声が多く、この3つをコンプリートするだけでも気が遠くなるのにそれに加えて、最低ここ3年以内のJOEに、クラシックなランドマークアーティクル、日々のliterature review論文、さらにこれにボード対策講習会で提示されたものを足したものが最終的な範囲になるそうである。






正直、今の段階から気が遠くなりそうなくらいのテスト範囲であり、これらを読破するだけでも難しいのに記憶をしなければならないのか(しかももちろん英語)と思うと一気に歳を食いそうである。

一応、Inflammation, Dental Pulpには和訳版が存在する。
ただ両方とも既に廃版である。
私はInflammationの和訳は持っているが、Dental Pulpのは持っていない。
しかもDental Pulpは既に2度以上新しいバージョンのになっており、和訳版が最後に発売されたのは1988年!ということを考えるとあまり意味はないのかもしれないが・・・

2年生になると対策講義があり、通常のliterature reviewに加えてその分の学習もしなければならない。従って今からできることはやろうと、最近は与えられたliterature以外に上述の3つの教科書をまずは読破し内容を把握することから始めている。

上記3つの教科書の中では、Pathways of the Pulpが最も臨床に即していて読みやすいのでまずはそれからスタートしている。

サウジアラビアからのレジデントはボード試験にパスすることがmandatoryだという。(そういう契約でここに来ているらしい)
私はmandatoryではないが自分の新たな学術的な目標にしている。

これは一見すると完全に無謀なことかもしれない。
TOEFLを最初に受験した時と似ている。
しかし、あのTOEFLでさえもクリアできたのだ。
Boardだってできないはずはないし、これをパスしないとここに来た意味がない位に思っている。

しかし、最近思うことが聞くこと、喋ることもハードだが何が一番ハードかといえばReadingであるということを思い知らされている。
読めば読むほど知識がつくのはわかるが、一度不慣れなワード満載な論文に出くわすと1つ読むのに数時間を要してしまうので調子が狂ってしまう。
とにかく理解できないと先へ進めないタチなので、余計に時間が掛かる。

今のところ、1日最低2本は読まないと消化しきれない。
しかも来週のlit. reviewがトロントスタディでこれがまた本当に面白く無いのでここ数日は完全に”作業”になってしまっている・・・。

さて、論文をどう読むべきか?というご質問をよく受ける。
例えばTOEFLの勉強をしているときに、ある先生はcritical readingなる読み方を提唱していた。つまり要点だけ捉えてすべてを読まないと言うやり方である。
しかし、結論から言うとこの読み方は歯科では通用しないだろう。

例えば前述したトロントスタディの中で初期治療(抜髄、壊死歯髄)の成功率を調べたものがある。そこによれば抜髄の場合92%, 病変がある壊死歯髄の場合74%だという。

しかし実際この論文では顕微鏡もNi-Tiも使っていない。
つまり、現代の多くの歯内療法専門医が行っている術式ではない。
そのことからこの数字をそのまま間に受けることはできない。

しかしそれでも抜髄で92%という数字はいかに無菌的な処置を行うことのほうが各種機材をそろえるよりも大事か?ということを示しているが、一度感染した歯を治療する際には裸眼は厳しいなという印象になる。

このように中身を精読しないと、自分がどう感じるか?がでてこない。

また第3者がどう感じているかも大事なわけで、私は今の所エンドの論文を読む際はまずABEのサイトからダウンロードできるLiterature review gideなど持っているものからまずはサマライズ(アブストラクトではなく、サマライズ)を探す。これでその論文が言いたいことが先に把握できるので、結論がわかった状態で読むと読み方も変わってくる。

今月末にはカンザスでボードレビューがあり、多くの2年生が受講するようだ。
試験は5月のAAEの次の週。
2年生は皆忙しく勉強している。
もちろん診療もこなさなくてはならない。

気づくとあっという間に1年が過ぎようとしているのに本当に驚く。
このブログも始めた頃はおそらく愚痴ばかりだっただろうが、今では前向きに勉強、診療ができている自分がいる。

与えられた環境でベストを尽くすこと、逆境と悔しさの中からこそエネルギーは沸き出ること、そして頑張り続ければ誰かが見ていてくれることをこの留学生活で改めて感じている。

なぜ留学してまで・・・とよく聞かれることがあるが、それは自分の中でまだまだこんなもんじゃない、という思いがあるからだ。
1つのステージを越えてももっと自分は良くなれるんじゃないだろうか?
もっと自分は変われるんじゃないだろうか?
もっと違う世界があるんじゃないだろうか?
と常に変化を求めてしまう。

好奇心と言ってしまえば言葉が軽すぎるかもしれないが、考えるよりも先に行動してしまうたちなので始末に追えない。

このように来るべきボード試験の学習も既に始まっている。
やること満載でいつもパソコンの上で力尽きて寝てしまう。
とにかく今は何も考えず、前へ突き進むのみである。

2015年3月9日月曜日

2015年1,2月を振り返る

昨日からロスはサマータイム(こちらではdaylight saving timeという)で、普通に過ごしているのに時間は1時間早いという日本生まれの日本育ちの私には意味がわからない?ちょっとした時差ぼけ的な1日だった。

今日からサマータイム導入されてのクリニックで時計が軒並み1時間遅い。が、時間は1時間早い。つまり朝8時半から学校は始まるが、実は今まで7時半の時間帯なのでみんね眠そうである。

私もこのなんとも言えない時間のトリックに今日は1日翻弄された。

最近は日々そうたいして変わったことがあるわけではなく、淡々とケースをこなしているような感じである。

ファカルティにコンピテンシーはパスしたがリトリーメントは日本でいっぱいやってたから、イニシャルをできるだけ配当してほしい(しかも大臼歯で痛いという主訴のやつ)という要望を出したら明後日の新患が#1の治療とあってびっくりした。#1といえばこちらで言えば上顎右側第3大臼歯である。つまり親知らず。親知らずのエンドをどうやってやれと言うんだ?と今から何が待ち受けているのかドキドキである。

とにかく最近は(というかここ数ヶ月)、大臼歯しか回ってこない。前歯や小臼歯を見ることがない。しかも初診の時に大体痛いやつばかり。まあ自分の希望なのでいいのだが、毎回忠実に私の要望通り配当されるので正直、驚く(笑)。

しかし、これは自分で言うのもなんだが、正直いい経験になっている。

みなさん、ご存知のように上顎はまあ痛みがあってもなんていうことはないというのは想像がつくと思う。とりわけ神経ブロックなどしなくても普通のinfiltration×2本で十分奏功するからだ。

やはり問題は下顎大臼歯だろう。
下顎の大臼歯でめちゃくちゃ痛い。こういうケースに遭遇すると普通は嫌だなあと歯科医なら誰でも思うだろう。

今まで振り返っても、
自発痛、激烈な冷水痛、噛めない、痛み止めも効かない、イライラする(痛いから私に患者が当たってくる)、腫脹、アブセスetc...
とにかく普通に勧められて来ました〜というケースはほぼ皆無である。

日本では(自分のクリニックでは)、こういう患者さんが来たときには治療不可、投薬して予約を取り直すようにしていた。
術前に痛み止めを飲んできてもらってそれから治療する。

しかし、ここでは痛いから来ているのでなんとかしないといけない。

そこで麻酔の出番となるわけだが、正直麻酔に関してはこれが黄金の法則である!というゴールデンルールがない。

つまり、伝家の宝刀など麻酔には存在しないのだ。従って、個々の患者さんと常にストラグルする必要があり、私はこれに関しては非常に興味深く臨床させていただいている。

USCのGrad endoでは下顎の治療で用いる麻酔はほぼ100%下顎孔伝達麻酔(Inferior Alveolar Nerve Block=IANB)である。

日本にいるとき、私はこの伝達麻酔というものをほとんどすることがなかった。いつも考えてみるとInfiltrationばかりだった気がする。それでも効かなければ、伝達麻酔するという感じだった。

しかし、こちらではまず第1選択が伝達麻酔でありそれが効かない時に次にどうするかを考える。

従って、下顎孔伝達麻酔ができないと治療ができない。

こちらでの術式はまずキシロカイン(エピネフリン1:100,000、日本と同じもの)を2本伝麻。

それでも効かなければ
①歯根膜内麻酔
②歯槽骨内麻酔
③髄腔内麻酔
を行う。

しかし、圧倒的に簡単で効果も持続時間も長く、麻酔効果が発現するのは②である。
経験がないとぞっとするが、ミニインプラントでも埋入したことがある先生ならなんていうことはないだろう。ただ刺入部位が痺れていないと痛いのでそれだけ注意する必要がある。

ただこの方法に問題があるとしたらコストである。
DentsplyからX-tipという製品が出ているが、これが10本で7000円。つまり1回の使用で700円である。

いうまでもなく、これを保険診療で使えば日本の歯医者さんは経営的に赤字になるので使用に関しては逡巡するだろう。

USCのレジデントでもこれを使用するものはほとんどいない。
コストがかかるからである。
しかもこちらでは、患者さんは痛みに耐えて当然という文化があるので、③の髄腔内麻酔をみな平然と行う。

なんでお前は髄腔内に麻酔を打たない?といつも同級生から言われる。
Pain is Painなんだから、Quick&Easy&Cheapなのに、と。。。

しかし私はどうもあの髄腔内麻酔の患者さんの飛び上がる感じが嫌である。
なので私のシークエンスは
伝麻、再伝麻、歯槽骨内or歯根膜内、そして最後が髄腔内である。

歯根膜内麻酔は日本ではしょっちゅうしていた。
しかし問題は効果が短く、痛みも歯槽骨内麻酔と比べて取れにくい。
しかも電動麻酔を持っていないので、歯根膜内に麻酔しようと思うとものすごい力が必要で私は個人的にこの方法を楽だとここで感じたことがない。
たまたま今日の患者さんはX-tipを切らしていたため歯根膜麻酔となったが自分の手がどうにかなりそうな勢いであった。。。

このほかにもGow-Gates法や開口が難しい患者さん用のVazirani-Akinosi法もあるが伝麻と比べて実は有意差はない、と言われる。しかし、経験的に伝達麻酔が効かなければGow-Gates法で効くという事が何度かあり、私はオプションとして患者が最大開口できればGow-Gatesも用いている。

痛みのマネージメントは本当に難しいが、現在は本当にいい訓練をさせてもらっていると思う。なんせ毎日来る患者、来る患者、ほぼHot toothなので。。。

また、麻酔が効けば1回法で終了することもしばしばある。
しかし今日は終盤、拡大していたら若干痛い、と言われ貼薬して終了となったが。。。

ということで、振り返るとこの1月、2月で50ケースを終了していたことが分かった。3、4月で40ケースくらい行けばいいかなと思っている。

またファカルティとの個別meetingでは、今のところクラスでも手技に関してはtop 3の中にいるらしい。しかしこれは完全に日本での貯金なので石井先生を初めとするペンエンドの先生がたのご指導様様である。

ある患者さんからはつい最近、レジデントの評価票?なるシートをいただいた。
そこでは私の手技、患者対応、スキル(どう患者がそれを評価するのかわからないが・・・)、プロフェッショナリズム、全てにおいて最高ランクをいただき、コメント欄に他の患者にも紹介します、大変すばらしい先生でした!と絶賛されていてそれをみたロヘスやリービィがわざわざコピーして朝のレジデント向けの講義で紹介したり、ラスティンには報告されたりするおおごとになったりで、久しぶりに大汗をかいてしまった(笑)。。。

と書くと順風満帆で自慢ばかりしやがってと捉えられるかもしれないが、もちろんストラグルしていることはほかに山ほどある。

薬理の試験は相変わらず未だ自分だけ受かっていないし、子供の患者には挨拶するなりいきなりギャーと走って逃げられるし、白人の婦人からは英語がフルーエントじゃないからチェンジでお願いしますと言われたり、PGペイシェント(HIVの患者。感情の起伏が往々にして激しい)からは早く終われいつ終わるんだ!と脅かされたのに腹を立てて、終われねえよ許可がないと!と反論して4文字言葉を浴びせられたり、ブリッジにラバーダムかけたらいきなり全部外れて困ったことになったりと逸話には事欠かない。

しかし、当初(去年の6〜9月)と違ってこれだけは確実に言えるということがある。
それは学校が楽しくなってきたということである。
最初は朝が来るたびに憂鬱だったのが、今では電車でUSCまで通うという現地人化した状態になっている。
しかも毎日、非常に楽しい。やはり私は臨床家なんだな、と実感している。

日本にいるときは、私がどれだけ正しい治療というものを叫んでも、患者さんに説明してもなかなか届かなかった。患者さんの中にはまるで893かというようなまるで私をリスペクトしない輩もいた。しかし、少なくともここでは一部の例外を除き私がリスペクトされないということはない。患者さんは常に感謝してくれるし一生懸命私の話を聞いてくれる。

日本に帰ればまた”戦い”が始まるのだろうけれども、少なくとも留学以前の時よりも”肩書き”は付くので今までよりも信頼してもらえるだろうか?

と言いながらこんなことをかいているようじゃあまだまだなんだろう(笑)。

精神的に相変わらず成長していないようだ・・・