今日の午前中はほぼ1週間振りに患者さんの治療を行なった。
最近はどうもキャンセルや無断キャンセル、受付で支払いで揉めて帰る、診断だけしか今日はできないと説明したら怒って帰るetc...などが続き私にはいっぱい論文を読む時間が与えられたのだが、やはり臨床ができないと言うのは寂しい。全てのペーパーは臨床の為にこそ存在するがその臨床を奪われた感じである。
臨床に繋がらない研究やペーパーは臨床家にとって退屈である。勿論そういう授業も。
現在、様々な授業があるが一番面白くないのはやはり臨床から一番遠いMicrobilogyだ。
まるで高校、予備校時代の生物の授業のようであり、”決まり事”をスライドにして発表させるものだから私は毎回literature reviewの為の時間に回している。この授業からはほぼフィードバックが無い。来年の1月にはresearchの内容を決めなければならないがその時のテーマは私が臨床で最も関心があるテーマに特化したいと考えている。
話がそれたが、臨床家にとって最も重要なのは臨床であり、そこから学ぶものは強烈に印象に残る。
今日の患者さんはメキシコ人の女性で主訴は歯茎が2週間前に腫れたと言うものだった。
口腔内を見ると、#28-29-30に#281本支台のカンチレバーPFMが装着されている。ただ、#31にもPFMがあることから本人に問診すると、このブリッジは20年前に作製しその時は#28-29-30-31(欠損歯は#29のみ)だったが、10年前に#30を抜歯してその際、#30-31間、#29-30間でブリッジを除去して以来そのままだという。今回はそのブリッジの唯一の支台歯である#28に腫れが生じた訳だ。
口腔内を検査するとPFMは無惨に破折し内部のメタルが咬合面には透けていた。
#28の頬側は若干腫脹し、歯肉は若干退縮し一部見える歯頚部は茶色く変色していた。
Cold(-)、EPT図れず。Palpation(+), Percussion(-), Bite(+)。Sinus tractは無い。Pocketもwithin normal limit, Mobilityも同様。また全身状態も健康そのものだった。
レントゲンを正方線、偏近心、BT-wingで撮影。
根尖部には病変が見られた。
また正方線でも、偏近心でも明らかに複数の根管が確認された。頬側と舌側の2根管である。おそらく予測するにVertucci TypeⅤでないかと疑われた。
下顎の第1小臼歯が2根管である可能性11.5%–46%で人種、性別、リサーチの方法により数値は変わるが少なくとも複数根管を有する可能性を頭に入れておかなければならない。かくいう私も下顎の第2小臼歯は2根管だ。しかし、私は日本にいるときも下顎小臼歯の2根管など治療した事が無い。つまりこれは私にとって初めての下顎小臼歯2根管ケースと言う事になる。
PFM Bridgeを#28-29間で除去しそのまま#28にラバーダムをかけて治療が開始された。こちらではクラウンにそのまま穴をあけて治療するケースが非常に多い。この患者さんも明らかに私には不適合修復物だが、患者がNoといえばNo。FacultyがNoといえばNO。よって従うだけである。こういうところでいやカリエスが残ってるかもしれないし、それを考えたらまず除去して隔壁作って、プロビジョナル作って・・・・などという議論をここでするつもりはないし、無意味だ。なぜなら私はここでレジデントとしてお金を支払って歯内療法という臨床経験をしにきている訳だから。
アクセスキャビティープレパレーション後、ストレートラインアクセスを行ない、主根管である頬側根管の根管長からまず測定した。その後、舌側へアプローチする訳だが、クラウンが装着されており元の歯冠形態が損なわれているので、どの位置に舌側が?と迷うところだが、顕微鏡の強拡大で根管を探索すると明らかに舌側に天蓋が残存しているのが見つかった。こういうところが、エンドでマイクロスコープが必要であるゆえんだろう。抜髄ならまだしもこの歯は壊死ケースで病変もできているので根管の見落としは避けたい。レントゲンで確認できたが、実際は見つかりませんでしたとなると目も当てられない。残念ながらルーペではこの根管を攻略はできないだろう。
ともかくその天蓋を超音波で除去していくと実にtinyな根管口部が発見された。
しかしここで問題が起きる。ファイルが入らないのである。いや正確に言えばファイルを曲げないとファイルの挿入ができない。K Fileの31mmをベンディングさせると根管が触知されたが、私は作業長が図りたい。でもストレートラインアクセスしないとその作業長は短くなるし、レッジはできるし、ファイルの破折の問題も生じる。
歯軸に垂直に頬側根管は奏功しているが、舌側根管はこの写真のBように主根管から角度がついているためファイルを曲げないと入っていかなかった。つまりストレートラインアクセスを得る為にはゲイツやorifice shaperを歯の長軸に対して、Dの写真の角度αだけ傾けないと行けないのである。ただ悲しいかな角度αで舌側根管にゲイツもorifice shaperも入っていかない。(歯がなければ入っていくけど・・・)
つまり私にこの時残された手は、ファイルをベンディングして手用でストレートラインアクセスを得るか、何とか#10のNi-Tiをするりと舌側根管に挿入するか、超音波でこの舌側根管上部の象牙質をもっと除去するかしない限り、この根管にアクセスできないのだ。
超音波は歯質を過剰に削除してしまうし、もしかするとそんなに歯質が舌側には無いかもしれない。CBCTも無い。これ以上の切削は怖くなりこの選択肢は除外した。
ファイルを90度近く曲げてストレートラインアクセスをする事も、この舌側根管から根尖部までの距離が分からないしファイル操作しようにも手が邪魔で顕微鏡で根管の位置が確認しづらいので却下。そこでMB2を攻略するときのシークエンスを参考にEndosequenceの#10.02, #10.04, #10.06を用いてみた。すると10.02がするっと舌側根管に入ってくれた。そのままテーパーを上げて10.06まで行ったところでファイルを挿入し根管長を測定しようとしたが・・・手用ファイルが入らない。プリベンドしても入らない。90°に曲げると入るがこれではファイル操作ができないので作業長も図れない。格闘する事15分、何とかファイルをプリベンドして舌側に入った!と思ったらそこは舌側でなくて頬側根管だった・・・事が判明して衛生士の予約が13時からあるからはよ片付けてと催促されてこの日は終了した。
診療後、このようなケースはどのようにあたるべきか?Case reportを探してみたが、詳細な記述のあるペーパーを得る事ができなかった。
但し、こういういわゆるVertucciのType5型の小臼歯の解剖をCTで研究したものがあり(Lie et al. 2012)、そこでは舌側根管は根管2/3の位置から始まる事が多いこと、根管自体が湾曲している可能性がある事、上図のいわゆる角度αはそこまでないもの、最大で70°近いものまで様々であったとの記述があった。
さて私はこの今日の失敗(舌側にファイルを入れる事ができず、作業長が図れなかった)と上記のペーパーから何を学んだだろうか?
舌側根管は主根管である頬側根管から根管の2/3あるいは根尖1/3で分岐していること。
舌側根管があると思って、舌側は超音波で歯質を削除する必要がある事。
舌側根管へファイル挿入するのは非常に難しいこと。
根管口部の拡大はファイルをプリベンドするかNi-TIを用いるか否か?(要はテクニカル的な意見を多くのファカルティに聞き出しdiscussionすること)
などだろうか。
術後にfacultyのDr. Schwarzbachとdiscussionしてみた。するとNi-TiがはいったのならNi-Tiが舌側根管に入ったところでモーターを止めてそのままハンドで使用してみては?と言う意見を頂いた。これを少しアレンジして次回何とか作業長を測ってみたいと思う。
しかし最近はこのような難症例ばかり配当されるので色々試行錯誤できて楽しい。
気がつくとこのtermももう10月半ば。いくつかの授業はmidterm testも終了した。
未だにカルテの書き方に慣れずに苦しんでいる事以外は何とか順応している。
今週末はラドル、フリードマンの講演、来週末はUCLAでエンドのセミナーがあり、今月はあっという間に終わりそうな気がする。
お久しぶりです、EEデンタルの井野です。
返信削除たまたま先生のブログを見つけました。
非常に興味深く読ませて頂きました、面白いです。
勉強させて頂きます。
アメリカ歯内療法専門医への道 頑張ってくださいね応援しています( ・∀・)ノ゙
井野先生 ありがとうございます。結局西海岸で修行する事になりました。
削除勉強になるか?は甚だ疑問のただの僕のストレス発散ブログですが、こんな感じで良ければおつき合いください。ありがとうございます。 松浦