2015年2月27日金曜日

It depends on the patient.

患者さんは50代黒人。

主訴は噛むと痛い。かかりつけ医に再根管治療を勧められたため、USC grad endoに来院した。

4日前に脱離したアマルガムの部分をコンポジット充填してその時のレントゲンで#30に問題が見つかったという。

しかしよく話を聞くと、もともとは全く痛くなく充填してから痛みが出たという。
しかもその充填物のfixをするので来週頭にはもう一度来い、という話になっていた。

口腔内にはsinus tractも腫脹もない。極めてノーマル。

こちらに来て初めて銀歯のクラウンを見た。装着したのは20年以上は前という。

つまりこの歯は20年間何の問題もなく機能しているのである。ただ2時カリエスは明らかにマージン付近に見られた。

しかし痛みがないので患者さんは少し怒っていた。

何で俺がroot canalが必要なわけ??

何にも痛くもないのに?

意味がわからない!

かかり付け医がなぜ紹介状をここによこしたかもわからない!と、僕に連発していた。

ええ、僕もわかりませんから今から診査させてくださいと歯髄診査に移行。

確かに、臨床検査からは何の問題も見られなかった。打診痛も咬合痛も圧痛もなし。
ポケットも正常範囲で動揺もない。

#31で綿棒を噛ませると明らかに痛い!というリアクション。
しかし、Coldはノーマルリアクション。EPTも+。
ただ、#31は来週頭にかかりつけ医でレジンをやりなすそうなので、ここが怪しいな・・・と目星をつけレントゲンを撮影。


BT-wingからすると、カリエスがクラウン内部まで浸透している?可能性が示唆される。
前医は相当思い切ったアクセスキャビティプレパレーションをしているようだ。
近心壁にはほとんど歯質がない。まさに首の皮一枚。

PAからも#30の歯質は過少であり、遠心根にはスクリューポスト。遠心根はNormal PDLに見えるが、近心根にはリージョンがあり、歯根を取り囲むような透過像が見られる。
破折の可能性が疑われる。
しかもdentin blockを起こしているか、レッジを作ってしまっているので元来の解剖学的形態は失われている可能性が高い。ということは再治療の成功率は50%未満であると言わざるを得ない。


また#31を見ると、遠心のレジンがなんとも頼りなさそうに見える。
アマルガムをレジンにやり変えたということだが、もともとMOD窩洞であったためこういう歯を直接法で充填するのは至難の技だ。私なら間接法でInlayを選択するだろう。
咬合面にはアマルガムが取り忘れさられている。

さて、以上を勘案するとどのような治療計画が妥当であろうか?

①再根管治療?

②抜歯→インプラント?

③経過観察?

④咬合痛は#31由来

以上を体系的にわかりやすく、患者さんが選択できるように専門家としてアドバイスしなければならない。

再治療であれば、利点は歯を残せる可能性がある。

ただし欠点は、修復可能かどうかの有無を再治療前にチェックする必要性。
虫歯が進んでいれば(レントゲンからはすでにかなり進んでいるように見える)、保存不可。
首尾よく残せたとしても残存歯質は相当薄くなることが予想され、再治療後に破折する可能性。
また再治療の成功率がこの場合は50%程度。治らなければ外科治療が必要。しかもその後、補綴治療も必要。

以上を勘案すると、抜歯という選択肢もある。
もちろん、何もしないという手も。

ここで重要なことは、それを決めるのは患者さん自身でなければならないということである。

スペシャリストは、治療の選択肢とそこで起こりうる可能性があることをすべて提示し、患者さんに選択していただけるようにしなくてはならない。

日本でGPをしていた時、私は常にこのスタンスだった。
虫歯1本治療するにも、様々な方法があり、そのすべてに長所・短所があり、費用もまばらで予後もまばらだ。症例によってはクラウンになることもあり、そうすると生活歯なら抜髄が必要になる可能性がありetc...などとスライドを見せながら話したものである。

しかし、一般的にGPは時間がない。
忙しいのだ。
多くの患者さんを見なければならない。
従って、“貴方一人に費やす時間”はほとんど無い、というのが本音だろう。
これは日本でもアメリカでも変わらないと思う。
なので、治療の内容を院長の代わりに説明する、なんちゃらコーディネーターなるものが必要になるのだ。

しかし、スペシャリスト(専門医)は違う。
専門的な知識をわかりやすく噛み砕いて患者さんに伝えることができる。
そのために十分な時間もとるし、それなりの準備もする。
また、我々はそのために相当な投資をしている。
なので、一般的に治療費は高い。
しかし、プライベートな時間は十分作ってあげることができる。
もしこれを読んでおられる方の中に、患者さんがいるとしたら
それを頭に入れていただければ、と思う。

この患者さん、最初は僕が挨拶してもニット帽を深く目まで覆い挨拶もしてくれなかった。

しかも、歯科医に対して文句の連続。
しかし、私が絵を描きながら必死に?英語で説明するとそれが伝わったのか、身を乗り出して聞いていただけて、最終的には詳しく説明してもらってありがとう。よくわかった。
俺は抜歯を選択するよ。
こんなに一生懸命説明してもらえたことは今までなかった、Thank you Dr.と言って帰っていった。



それはさておき、我々の個人的な意見はどうだったか?だが、
ファカルティは全員、Questionableで抜歯を第1の治療に挙げていた。
私の意見も同じ。インプラントの方がどう考えてもベターだと思う。

しかし、重要なのは誰がそれを決めるか?だ。
我々は助言はできるが、決定はできない。
決定するのは患者さん自身である。
患者さんがそれでも残したいといえば、我々は保存に努める。

すべてのファカルティがIt depends on the patient.というように、治療の内容は患者さん自身が決めることができなければならない。


4 件のコメント:

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  2. 松浦先生

    先生のスベシャリストとしての矜持を感じます。完全にアメリカのendodontistになってますね。本当にすごいです。
    私事ですが、来週ドイツで開催されるIDS(InternationalDentalShow)に、視察のため参加させてもらうことになりました。
    世界と日本の歯科材料の違いを、肌で感じ、今後の役に立てればなーと思ってます。
    先生にも有益になるような情報を持ち帰れるよう、頑張ってみたいと思います。
    …ちょっと生意気なことを言いました。すみません。
    まずは自分の勉強として、頑張ってみます!

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    1. 手嶋さん
      よくインプラントvsエンドという対立軸がありますが、これは僕は同意できません。
      エンドは根尖性歯周炎を治すことが目的であり、その結果修復物の予後が長らえるのは同意しますが、それだけじゃありませんよね。対立軸を設けるならインプラントvsエンド&ペリオ&レストラビリティの筈です。しかし、なぜだかエンドとインプラントを単純に比較しようとする人がいます。その天然歯を保存するかしないか?考えるときはやはり、エンド、ペリオ、レストレーションの3つを全て組み合わせて予後を考えないといけないと思います。その意味では、これからのEndodontistにはインプラントを含めた包括的な知識が必須だと思います。なにせ、圧倒的にインプラントは欠損補綴として有効ですから。ただ、私はしないですけど。
      ドイツと言えば、やはり補綴が進んでいるという印象があります。
      エンドはわかりません(笑)。昔技工士さんにドイツの補綴大学院を勧められたこともありましたね、そういえば。。。また色々と教えてください。福岡には4月に帰りますので機会があれば一度ぜひご教授ください。 松浦 拝

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  3. 松浦先生
    超精密・精巧な仕事はドイツの十八番って感じがします。なんとなくですが。
    言葉が足りなくてすいません。ドイツだけでなく、世界中の企業が出展してる展示会です。気になるものがあったら、ぜひ情報を持ち帰ります!
    むしろ先生に教えていただくような感じになっちゃいそうですが(汗)

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