2015年7月20日月曜日

シルバーポイントとバイオセラミック

ここ数日、ロスは雨が降って湿気が非常に高い。


夜は寝苦しく、実に不快な毎日である。
院内もなぜかいつも効いているはずの冷房があまり効いておらず汗をかきながら診療している。

さて、こちらで治療していて日本ではお目にかかることが殆どないものの中の1つがシルバーポイントである。


シルバーポイントはJasperが1941年に提唱した根管充填材の1つであり(1)、銀で作られており、彼曰く、ガッタパーチャよりも使いやすくガッタパーチャで根充するときと同程度の成功率を有しているとされている。シルバーポイントはその硬さのために根管内に挿入しその長さをコントロールするのがたやすいとされているが、不規則な形態を持つ根管を充填して封鎖することができないのでリークを生じる。


もしもシルバーポイントが唾液や組織液と触れるとシルバーポイントは腐食することが示されている。(2)

この腐食した物質には毒性があり、根尖病変を誘発し根尖部歯周組織の治癒を妨げることが指摘されている。(3)

シルバーポイントは前述したように一定の硬さとしなりがあるため、根管形成の際に術者が設定した作業長に容易に到達するので、これが根管形成を不十分なものにさせてきた。
こうした歴史的経緯とその為害性から、現代の歯内療法において使われるスタンダードな材料から外れたのである。
シルバーポイントはシーラーとともに使用されることが基本だが、時には使用しないことがある。

日本でもしばしばシーラーを使用しない!という先生がいた。
私が勤務した時のこと、シーラーを使用しなくても予後はいい!シーラーは毒だ!と豪語されている先生がいらっしゃったが、すべての薬剤は毒性を少なからず持つが現存するシーラーはおしなべて生体為害性は極めて低い。(4)

また、Wuらの研究でも明らかなように(5)、シーラーを用いなければいくらレントゲン的に素晴らしい根充をしてもリークは容易に起きる。従って現代の歯内療法からすればこのような考え方は、 below the standard of careである。

シルバーポイントを除去する方法は様々あるが、一般的にシルバーポイントはコアマテリアルの中に埋まっていることが多く、極力それを傷つけないようにシルバーポイントだけ露出させたいのだがなかなかそういうシチュエーションには遭遇できない。
多くの場合上記のレントゲンのように、根管に埋まっていることが多い。
すると問題になるのが根管の中にタイトにがっちり埋まっているか、ルースかということである。ルースの場合は除去は比較的容易でシルバーポイントと根管の間の隙間にHファイルを抵抗があるまで挿入し、若干回して一気に引き抜く。しかしこの時根管にアンダーカットがあると除去できないので図の斜線部のようにアンダーカットとなる部位はあらかじめ除去しておかねばならない。


問題はこれが今回のように根管にタイトに埋まっている時である。
この場合、”隙間”を作らなければならないがこの隙間をどうつくるか?である。
ガッタパーチャであれば、迷いなく超音波を使用すれば良いがシルバーポイントの場合、超音波が触れると折れてしまう可能性がある。するとさらに深い位置でシルバーポイント除去を必要とするため、さらに問題は複雑化する。従ってどのようにtroughを作成するか?であるが、超音波を使用できないのでMunce barを使用した。

Munce barはもはや私にとってはなくてはならないものであり、今回もこの中の最も径が小さなバーでシルバーポイントとその周りに隙間をつくることに成功した。
するとシルバーポイントはプラプラと動いてくるので、Hファイルを使用する準備が整った。
#20ルースで抵抗感なし。
#25,30,35でも同様。。。
#40でようやく抵抗感をタイトに感じたのでここで少し回してHファイルを支点にしてテコの原理でPull-outした。




写真の黒い部分がcorrosion=銀が腐食している部分である。
この写真からもわかるように、根管の中は感染していたのだ。

確かにシルバーポイントでの根充は簡単かもしれない。
細く根管形成して、しなりがあるシルバーポイントをシーラーとともに突っ込めばいとも簡単に根充は終了する。

しかし・・・結果はこれである。

もちろん、シルバーポイントで根充された症例でレントゲン的にはうまくいっているように感じられる症例もあるのは事実だ。

そうした症例は、防湿、根管形成と洗浄がきちんとなされたのであろう。
しかし、それでもたいていの場合、タイトなシーリングはやはり難しい。
なぜなら基本、根管系というのは複雑なものであり、単純な丸い根管などほとんど存在しないからだ。(6,7)

これは何かに通じるのではないか?・・・
そう最近流行り?のシングルポイント+バイオセラミックである。

実は今日、たまたま教授のDr. Rogesから
『今後、いかなる症例においてもBCシーラー+シングルポイント根充をすることはまかりならぬ』というお達しがでた。

もちろん大勢のレジデントは大反発であったが、私の個人の意見で言えば、こちらの患者の長い根管、現代の小さなテーパーの根管形成、長いアピカルプラグを作成するCWCTが事実上(ZOEやその他なんでも)シーラーを用いたシングルポイント根充であることを考えると正直大きな問題でないというか、シーラーなんてなんでもいいの(ベストなシーラーなど存在しない)ので(8)、私的には問題は全くない。まあそれならばBCシーラーでもいいのでは?という話になるが、今年のEndodontic TopicsでTropeがBCシーラーの今までの根管充填剤にない様々な利点を並べ、時代は変わったこれからはシーラーが根充の主で、ガッタパーチャは副である(9)というような趣旨の意見を述べていたことからすればどうやらバイオセラミック根充はビタペックスのように、粉剤根充、しかもかなり高価な、と考えて差し支えないだろう。

が、これに対しては私はOrstavikが繰り返し指摘している様に(8)、Bioceramic系シーラーには従来の大方のシーラーに見られる様な大規模なcohortスタディやRCTレベルの研究がない中では、それらと同等なルーティンなシーラーとして使用するのは憚られる。

つまり私は、MTAセメントの様に少なくともプロスペクティブスタディレベルのエビデンスレベルでその材料が支えられる状況(10)まで、一般開業医(GP)の先生は”待つ”べきであると思う。

日本でもバイオセラミック系のシーラーが出ていると思うが、その簡単な手法やバイオセラミックといういかにも生体親和性が良さげな甘言?や広告に釣られて使用するべきでないと思うし、根管治療で重要なことは多くの先人たちが指摘している様に細菌感染のコントロールである。(11,12,13)

どのような材料を使用するかなど枝葉末節に過ぎないということを強調しつつ、いかに感染をコントロール(もしくは防止する)ことの方が重要であるか?をこのブログを通じてもう一度先生方1人1人が認識していただければ幸いである。

参考文献
1. Jasper E: Adaptation and tolerance of silver point canal filling. J Dent Res 4:355, 1941.

2. Brady JM, del Rio CE: Corrosion of endodontic silver cones in humans: a scanning electron microscope and x-ray microprobe study. J Endod 1:205, 1975.

3. Seltzer S, Green DB, Weiner N, DeRenzis F: A scanning electron microscope examination of silver cones removed from endodontically treated teeth. Oral Surg Oral Med Oral Pathol 33:589, 1972.

4. Ørstavik D, Mjör IA. Usage test of four endodontic sealers in Macaca fascicularis monkeys. Oral Surg Oral Med Oral Pathol Endod 1992: 73: 337–344.

5. Wu MK, Van Der Sluis LW, Wesselink PR: Fluid transport along gutta-percha backfills with and without sealer. Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol Endod. 2004;97(2):257-62.

6. Hess W: Formation of Root-Canals in Human Teeth Prat Ⅰ. J National Dent Assoc 1921;8:704-734.

7. Hess W: Formation of root canals in human teeth Part II. J National Dent Assoc 1921;8:790-832.

8. Ørstavik D: Endodontic filling materials. Endodontic Topics 2014, 31, 53–67

9. Trope M, Bunes A, Debelian G: Root filling materials and techniques: bioceramics a new hope? Endodontic Topics 2015, 32, 86–96

10. von Arx T, Hanni S, Jensen SS: Clinical results with two different methods of root-end preparation and filling in apical surgery: mineral trioxide aggregate and adhesive resin composite. J Endod 2010: 36: 1122–1129.

11. Kakehashi S, Stanley HR, Fitzgerald R: The effects of surgical exposures of dental pulps in germ-free and conventional laboratory rats. Oral Surg Oral Med Oral Pathol. 1965;20(3):340-49

12. Sundqvist G: Bacteriological studies of necrotic dental pulps. Umae Univ Odontological Dissertations 1976; No. 7, 1-93

13. Möller AJ, Fabricius L, Dahlén G, Ohman AE, Heyden G: Influence on periapical tissues of indigenous oral bacteria and necrotic pulp tissue in monkeys. Scand J Dent Res. 1981;89(6):475-84.

2015年7月13日月曜日

Anatomy oral exam

多くの方から、”消息不明”を指摘されたが、私は至って毎日忙しく過ごしている。
まあ消息不明になりたいような問題が多々あったのが原因だが・・・
さておき、要は忙しかったのである。

今日は解剖の中間テスト最大の山である、”Oral examination”が行われた。
Skullが当てがわれて、Trigeminal nerveをはじめとするCranial nerve、動脈・静脈の走行や通過する孔や窩の部位、筋肉の名前を答えるというもので、独立記念日も一人家にこもり写経のように手を動かした2週間の猛勉強のせいか?私はなんと初めて基礎系の座学のテスト、しかも口頭試問で満点を取るという快挙?を成し遂げることができた。Skullを2個もアマゾンで購入した甲斐があったというものだ・・・


思えばこの5月には、胸鎖乳突筋は聞いたことはあるがSternocleidomastoid muscleは生まれてこのかた、見たことも聞いたことも話したこともないという情けない状態で、最初の小テストでは30点という全レジデント中ぶっちぎりの最下位という笑えない点数を取ったので、今回の達成感は非常に大きかった・・・。


特にBoard試験でこれら用語が必要になるため覚えて損はないという気持ちでやってきたおかげだと思う。Phterygopalatine fossa, Pterygomaxillary fissure, Sphenoidpalatine foramen, Inferior border of the zygomatic process of the maxilla, Inferior border of the zygomatic arch, Levetor labii superiors muscle, Levetor anguli oris muscleは特に何度覚えても覚えても忘れ混同した最たるものであり、願わくばもう二度とお目にかかりたくないものだ。







さて今年の1年生は女性が7人、男性3人という編成でこれだけ女性比率が高いのはUSCのGrad endoの歴史の中でも初めてだという。
中東系が圧倒的に多い4人、イスラエル人を入れると半分の5人。
アジア系が3人、ロシア人1人、そしてホセの奥さん(南米)の合計10人。
彼らは去年の我々のようにtooth projectに取り組む日々である。
またぼちぼち今年も来年の出願が始まり、何人かインタビューを受けに来ているのを見かけた。こうやって1年があっという間に過ぎてもらいたい(笑)

しかし、1日1日は非常に濃くそして長い。昨日のようなことがあれば、特にだ。
しかし、これが最近問題になっている。
PEDO(小児歯科)のエンド治療はいわゆるコンベンショナルな根管治療や外科症例以外はrequirmentに含まれないという話は前にもしたと思うが、これが最近顕著なのである。
あれだけ格闘してVPTをしたにもかかわらず、ケースにならない。
術者もファカルティもアシスタントも患者も母親も全員疲弊する。

しかも患者によっては単なるレジン充填という名のindirect pulp cappingだったり、そもそも何の治療も必要なかったりすることがある。
たとえば今日の午後は14歳の女児の根管治療2本(#3,14)ということだったが、本人は痛み何もなく、検査も正常、レントゲンも正常像と診断だけで終了してしまった。
なんでここにきたの?と聞けば、知らない、の一言。。。
痛い時があったので紹介されたんだと母親は言っていたが・・・

現状、基本USCのピドクリニックのスタンスは、簡単な充填以外は乳歯しか見ないというものなのでこれで我々にしわ寄せがきている。
これにクラスの代表のノアがdirectorに意見してくれた。これで状況が変わるのかわからないが、少なくとも幼若永久歯でpulpotomyで済むケースはエンドでなくてピドに送って欲しいものである。。。もしくは我々が診断してリバスやアペキシなどにならないケースは、PEDOへ送るべしというルールを作ってもらいたいところである。

ところでここにきてもう一つ気になることが、子供の英語である。
最近、子供が突然堰を切ったように家で英語を喋るようになり、私も嫁も何を言っているのかわからない時がある。幼稚園でも小学校でも彼らは英語で(当然)友達と喋り、遊んでいるからだろうが・・・7歳の子供の問診で鼻で笑われる私の立場は一体。。。

2015年7月11日土曜日

疼痛管理に明け暮れる日々

6月半ばから2年生になり渡米からはや、1年以上が経過した。

今学期は忙しいなんてものじゃない。
毎週月曜日には解剖の授業の小テストが常にあり、その勉強をしなければならないし、literature reviewも同じ月曜日に移動したため、週末はもはやこの2つの準備に追われる始末である。平日に堅実に準備していきたいものの、今学期からナイトクリニックが火曜日、水曜日と週2回に増えたため、私は毎週このナイトクリニックで患者をみている。
ナイトクリニックとは、17:00~21:00までの夜行われる診療でありmandatoryではないが、私は常に両日共に患者を入れている。理由は至極簡単で、高い学費を払っているのだから少しでも多くの患者を診ないと損する!という理由だ。日本に帰ってからこれだけバラエティに富んだ人種の患者を治療する機会はそうそうないと思う。この経験をお金で買っている感じだろうか。



しかし1日が終わると、もはや体力的には限界、家に帰るとカルテの整理や紹介元への報告書など作成しているうちに、気が付いたら寝てしまっている。

昨日はその中でも特別忙しい日だった。
フォローアップを除く患者のすべてが, "Hot tooth"を持っていたからである。

Hot Toothとは文字どおり歯が熱い→歯が強烈に痛い!!の意味であり、すでに患者は薬を飲んでも効かない状態であることが多い。

このような場合、日本では常にまずは投薬していた。
理由は簡単、もしこのような患者を診れば予約が大幅に崩れるからだ。
しかもこういう場合、まず麻酔が効かないことが多いのでどうしても治療を躊躇しがちである。

しかし、USCでは患者は痛いから来ているわけであってその歯が修復不可能でない限りは、痛みをコントロールして治療すべしという考えなので、投薬で様子見て・・・という選択肢はまずない。

しかも今学期は小学校が夏休み(6月〜8月はこちらの小学校は休み)に入っているので、子供の患者で歯が痛い!というケースが非常に多い。

昨日は7歳の女児が歯が痛くて夜寝れないと来院した。

主訴は#30で大きな齲窩があり、根未完成歯でX線的にはすでに露髄している状態であり、その他3本の第1大臼歯にもすでに大きなカリエス、さらにその他の乳歯には多数のアマルガム充填、複数本の乳歯の抜歯、保隙装置と、明らかに養育者に問題を感じさせる口腔内であった。



治療方針はVPT(Apexogenesis)ということにいなるのだが、なんといっても問題はこの7歳の我が息子と同い年のこの女児をどう治療中コントロールするか?ということである。

疼痛管理に始まり、術中の体動、口が開かない、治療にすぐ飽きるetc...などを考えると笑気の使用を強く勧めたが、拒否された。

アシスタントのキャンディに介助についてもらい、何とかなだめごまかしながら下歯槽神経ブロック&頬神経ブロックをキシロカイン2本を用いてラバーダムを装着したが、歯髄に近ずくと痛みを訴えたので伝麻&セプトカインによる歯根膜注射を追加しようとしたところで、号泣&もうやめたい(こっちがやめたいよ・・・)と言い出し、途中母親も出てきたものの、USCのPEDO専門のファカルティのDr.バダーンがヘルプしてくれ、彼女を何とかなだめ聞かし、セプトカインによる歯根膜麻酔に成功(ここでニシカさんのアネジェクトがいつも非常に役立っています、手島さんありがとうございます)、痛みはなくなり、結局full palpotomyに。

しかしなかなか出血が止まらず、ヒポクロで洗浄&止血、止血確認、止血せず、再度少しづつ歯髄除去、再度洗浄、止血、止血確認を何度も何度も繰り返した末、ようやく止血し、早く終わりたいので、Biodentine一塊で歯髄のcappingと築造を試みようとしたらバイブレーターが壊れ、結局手持ちのBC sealerとパテでcappingし、Fuji9で築造ということになり終わったのが12時半であった。始まったのは10時、診査、レントゲン、診断、ファカルティとの協議、治療前のインフォームドコンセントを母親にしようとしたらパーキングの時間があと少ししかないとかでカードを切る必要があるのでと30分以上戻らず、ようやく説明して治療が始まったのは11時10分前だった。

この時点で既に治療に通常は入れないが、女児が自発痛を抱えていたため治療すべしとなり、上記のような顛末になった次第である。

USCでは小児の患者でも、永久歯で露髄する疑いがある症例はすべてGrad Endoが受け入れている。そのため、小児の患者の数にも事欠かない。

しかし、悲しいかなこのケースはrequiementに含まれないので、私は骨折り損の・・・ということになってしまう。

しかもこの日は僕はもう2人患者を抱えており、それらも自発痛を持つ患者であった。特に最後の学生のクリニックから来た患者29歳女性は、学生が根管を見つけられない&麻酔が全く効かない、が、学生は御構い無しで治療を続行で、激痛で体は震え号泣しながら私の元にやってきた。。。それでも開口一番、うちのアシスタントがあんた金払ったの?(学生のクリニックよりもレジデントのクリニックの方が治療費が高いのでその差額を支払う必要がありそれが支払われない限り一切の治療に入れない)と患者に冷静に告げるや否や、患者は意識朦朧としながらフロントへ行き支払いを済ませ、私は一人その後始末に追われたのである。。。



エンドに興味がない人、および歯科関係者でない人でも上記の文章を読んでいただければどれだけ私が格闘したか?想像につくと思う。

今、日本ではエンドが流行っているという。
こちらでも若くしてエンドの大学院へ入ってくる優秀な歯科医師は多い。
エンドは1、2回で終了するし治療費も高いのでそれが大きな魅力になっていると言われる。
しかし、実際の歯内療法臨床とは、このように非常に泥臭いものであり、まさにEndodontistは痛みとの格闘を強いられる。歯が痛くて痛くてたまらないという患者と日々向きあわなければならない、このような環境下で揉まれたレジデントは、相当の自信がつくだろう。

今まで避けて通っていたことに向き合い、その壁を少しづつ超えているという実感を感じつつある日々である。