2014年10月20日月曜日

Patency File、是か非か?

最近、ある歯科医師の方から、Patency Fileに関して私が否定派なのはどういった根拠からか?実は自分は賛成派で、臨床上もほぼトラブルなく過ごしているし、Pathway of the PULPを読んでみても否定的な書き方はされていないと思うのですが。というご質問を頂いた。

Patency Fileとは根尖部に詰まった削片を小さなファイルを用いてアピカルフォラメンから数mm出すことで除去し、作業長を可及的に維持するための処置である。

AAEの用語集では、apical patencyとして収録されており、
” A technique where the apical portion of the canal is maintained free of debris by recapitulation with a small file through the apical foramen.”と定義されている。

さてこの行為について私は大学時代、習った記憶がない。この方法は開業してから知った方法で、歯科雑誌か何かに乗っていたような気がするが、記憶は定かでない。
USCではDDSプログラムで作業長を維持するための必要なテクニックとして学生にしっかりと教えている。したがって実習で学生が作業長までファイルが到達しないという局面に達すると、patency fileをしてこの根尖部の詰まりを除去することでそうした問題を解決してあげている。(ただし彼らのほとんどは抜去歯牙での根管形成中、洗浄液を根管に満たさずにファイル操作している。これが詰まる最大の原因だが。。。)
しかしこの方法を教えている北米の歯科大学(DDSプログラム)は約50%だという。
このことからしてもPatency Fileというのは議論が分かれる治療行為といえるだろう。

実際に学生実習でpatencyを行うと確かに尖通性は復活するが、この時同時に根管のdebrisがアピカルフォラメンから出てくるのが確認できる。これは大丈夫な処置なのだろうか?これが感染根管だったら細菌感染を根尖孔外へ逸出させるのではないだろうか?また術後の痛みが出ないのだろうか?と色々考えてしまう。

私自身も気に成っていたトピックであり、この先生から御質問をいただいたので少し調べてみようと思った。数年前に某講習会でこの話を聞いたときは、確か”しないほうがいい処置である”という記憶がある。

まず各種教科書ではどのようにこの行為を捉えているだろうか?有名と言われている教科書を全てレビューしてみたら賛成派と反対派に分かれている。また全くこの件に関して記述がないものが見られた。(その多くはヨーロッパのエンドドンティストの教科書だった。)

概ねこの行為は、”作業長の維持には有効だが、この行為自体がいまだいいのか?悪いのか?十分なエビデンスがない”という評価である。

その中で、肯定的な意見を見てみると、①作業長が維持できるので根管形成による人的エラーのリスクを減らせる②デブリが除去できる?③術後疼痛を引き起こさない④ヒポクロを根管内に満たしておけば、これで感染する可能性は最少⑤突き出すことで根尖部の炎症や感染の状態を把握できる(例えば浸出液や排膿が確認できれば感染や炎症の程度が確認できるby Ng)⑤洗浄液の到達が良くなる?(エビデンスはないが)⑥Patency Fileを行うと、エンドの予後が向上した(retrospective study)⑦グライドパスを確立または維持できるというものであり、どちらかといえば生物学的な理由よりも機械的な理由(根管形成や充填を上手くやる)が優先されている。

patency大反対の急先鋒は多くの鮮やかな組織切片を我々に提供してくれているD. Riccuciだ。彼はpatency fileが治癒を促進するのか悪化させるのか、治癒にどのような影響を与えるかははっきりしたエビデンスがまだないと断言し、しかも自分の臨床の中でPatency Fileを行なっていないと述べている。またGuttmanもPatency Fileは経験主義的でこのコンセプトとテクニックをサポートする十分な研究はないと教科書で述べている。またWilliam T. Johnson とW. Craig Noblett もデブリや洗浄液細菌の突き出しに対する懸念が考えらるし、それにより根尖部歯周組織に感染源を供給するし、治療の失敗は根尖孔外細菌感染で起きるわけで、patencyをやっても細菌が減ることもないし、トランスポーテーションも起きにくということはないと述べている。また小さなファイルがデブリの除去にそれほど有効でもないとも述べている。
BergenholtzやØrstavik に至ってはこの項目すら教科書にない。それだけこのトピックに関して彼らは懐疑的なのであろう。現に、Bergenholtzの前のtextbokにはその記載があったが、最新版ではpatencyが削除されている。

さてこれらを総合的に考えると一つの結論に達する。
この行為は臨床的に有効だが、まだよくわかっていないことが多すぎるテクニックであるということだ。となるとこれをするのもしないのも、臨床家その人の考え次第ということになる。

例えば抜髄ケースで根尖部がブロックしたらいい気はしない。なので私はpatencyをこの時はするかもしれない。(ただし逆に抜髄の時は詰まったほうがいいという意見もある)
あるFacultyに聞いたとき、彼はこの意見を肯定していた。”patencyは歯周組織を傷つけているわけではない。例えて言えば皮膚の表面を擦っているようなものであり、それで炎症は起きないでしょう?”という理屈だった。しかし、それをサポートするペーパーはないので、やはりこれも経験主義的であると言わざるを得ない。この前講義を受けたラドルは超肯定派である。1mm出せ!そうすればアピカルフオラメンで#12となり、次の#15mmが容易に作業長まで入る(拡大率が50%→25%に減少するので)、patencyを確保しろ、Glide pathをしっかりやれ・・・という具合である。しかし教授のロヘスはやはり否定的だった。理由はペーパーで裏打ちされていないことはdiplomateとして、肯定する意見をEndodontistおよびEndoのレジデントに与えるわけにはいかないというものである。彼はペーパーにないことや懐疑的であることは一切しない主義である(しそうに見えるが)。

では壊死していたり、再治療で病変があるケースはどうだろうか?
この時は、細菌が根尖孔外へ逸出する可能性が否定できない。ということはそれが原因で難治化する可能性はなくはない。なのでこの場合は私はしないだろう。確かに根管にヒポクロを満たしておけばファイルの突き出しにより根尖孔外に細菌感染は起きないとする論文はあるが、in vitroでしかも1本だけであった。またこれはエビデンスはないが同期のレジデントがヒポクロを満たして作業長をレントゲンで計測、そこで若干ショートだったので少し調整したらヒポクロアクシデントが発生したという。またデブリの除去に関してもどれほど除去できるか分からない。術後疼痛に関しては壊死している場合patencyしたほうがしないものより術後疼痛が1/3以下になるという。デブリや細菌にまみれた汚れを根尖部に残しておく方がpatencyの刺激よりも炎症を引き起こすからだというのが考察としてあった。しかしこれには統計的有意差がなく、しかも術前に痛みがある場合や下顎の歯は上顎にの歯に比べて、patencyすると逆に痛みが出やすいという。色々な変数を考慮すると、patencyしたほうが術後疼痛のリスクを下げるのではないか?という結論であったが、確かになんらかの相関性はあるのかもという感じだが、歯切れが悪くなんとも言えない。

Patencyが!というよりも、前に述べたかもしれないが、根管が詰まる最大の原因は根管が乾燥していたり、洗浄不足である。私がつい先月まで作業長がややアンダー気味になっていたのもおそらくはラバーダムの継ぎ目を塞ぐマテリアルを持っていなかったがために、ヒポクロでの洗浄が曖昧になって十分な根管の洗浄ができなかったからではないかと推測する。現に、日本にいるときもそしてここに来て最近の臨床でも作業長がおもいっきりアンダーになることはもうほとんどないからだ。

以上を総合的に考えると、感染がないケースで、レントゲンを美しく見せたいなら、また根尖部の目詰まりが嫌ならpatencyをするのかもしれない。ただ、私はRiccuciやロヘスと同じく、patencyは全否定ではないができればしたくない処置であるということがやはりここからも結論付けられた。

もちろん、この処置で臨床的に問題が出ていない!という意見はよくわかるので、この件に関してもっと様々な研究がなされてペーパーの数も増え、エビデンスレベルも上がったリサーチが出て来れば白黒がつくことになるのかもしれない。

ここからは私の個人的な考えになるが、我々は歯科医師であるので、機械的な器具操作の良し悪しや術後の根充のレントゲンの美しさは無論、ある程度は重要である。
しかしながら、我々は何を相手に治療を行っているだろうか?根管治療であれば細菌、ということになる。
抜髄なら細菌を入れない、再治療や壊死ケースなら細菌を可及的に減らすということが目的と考えると、私の意見としてはもはやこの行為はテクニカルな目的で行うという以外、言及すべき言葉が見つからなかった。

これからのさらなるリサーチを待ちつつ筆を置きたいと思う。


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