2015年1月25日日曜日

Electric Pulp Test

50代男性。

#14に激しい痛みがあり、レントゲンで明らかに根尖病変があるのにもかかわらずElectric Pulp Test(以下EPTとする)で陽性になったものがあった。(ちなみにCold Testは陰性。)
レントゲン的には近遠心にアマルガムが充填されており、深いカリエスなどの初見はない。

レントゲンで病変らしきものが見られるのに、歯髄が生活しているということはNielsen (1995) のCase reportでも示されているようにまま見られることである。

なので、レントゲンのみの診断はもちろんできない。
従って、我々はクリニックで日々この歯髄診査というものを行っているわけだが、しかし今回は合点がいかない。

なぜ歯髄が壊死している(と考えられる)のに、EPTがPlusになるのだろうか?
そしてそもそもEPTを臨床的にどのように捉えるべきだろうか?

多くの方が既にご存知のように、EPTは電気刺激に対する歯髄神経(A線維。主としてAδ線維)の反応を見ているに過ぎない。真の意味で”歯髄が生きている”ということは、”歯髄に血液供給がある”ということであり、EPTでそれを確かめることはできない。

またその診査結果は患者さんが痛いとかちくっとするなどといった主観的なものである。つまり、偽陽性や偽陰性になりやすい。

しかし、EPTは未だに重要な検査方法であり適切に用いれば歯髄の病態に対して有益な情報をもたらしてくれる。しかも安全である。(かつて犬withペースメーカーにEPTしたらペースメーカーが故障という実験があった。しかしこの当時のペースメーカーが現在のものと比べて精度が低いこと、またその後の研究では現在のペースメーカーにEPTが影響を及ぼさないことがわかっている。)

しかし、EPTは1本の神経線維に対する研究を基にして作られているので、歯の神経のように多くの神経が存在するとより低い電流でまた少ない数の歯髄の感覚神経に対しても反応してしまう。これが歯髄が壊死してもEPTに反応する(偽陽性となる)原因の1つである(Narhi et al. 1979, 1982)。また歯髄神経線維と歯周組織神経の閾値が同程度であるため、歯髄ではなく歯周組織の神経がEPTに反応してしまい偽陽性となることもある (Narhi et al. 1979)。

また矯正用バンドやクラウンが入っている歯にEPTは行えない。理由は電流が歯周組織や隣の歯に流れて患歯が正しく診断できないからである。(Rowe & Pitt Ford 1990, Myers 1998)
もしクラウンや矯正ワイヤーが入っている歯にEPTするなら①クラウンのマージン下の歯牙に接触させる②クラウン間はプラスチックストリップスを挿入する③矯正用ワイヤーやバンドは除去する必要がある。

検査を行うには乾燥も必須である。電気が歯肉に流れてしまいそれが偽陽性を呈する原因となるからだ。

また、隣在歯にメタル修復がなされている歯もEPTにより電気が隣在歯に流れていくので偽陽性を生む (Myers 1998)。こういう場合もやはりプラスチックストリップスを両隣在歯に挿入するべきである。

またDummer et al. (1980)によれば、歯髄壊死により生じた分解産物がまた電気伝導性を呈し、それにより隣接する歯髄組織に電気刺激を伝えるという。

またPeters (1994)によれば、複根歯の場合、根の中に壊死していないものと既に壊死しているものが混在している可能性があり、その際、EPTが反応することがある。これも偽陽性の原因である(ただし臨床的にはわからない。)

以上を勘案すると、どうやらEPTが偽陽性になってしまう場合は以下のようなことが考えられる。

①乾燥が甘かったため、歯肉&歯周組織が反応
②(壊死していることが疑われる)患歯に歯髄組織が残存
③歯髄壊死溶解物に電気伝導性があり、それに近接する歯髄に刺激を伝達した可能性
④患歯隣接面に金属修復があり、そこから隣在歯に電流が漏洩した可能性
⑤複根歯で壊死している歯髄とそうでないものが混在

私の偽陽性もおそらく、この①〜⑤の中のどれかもしくはすべてが原因だったのかもしれない。

またこの逆で、EPTが陰性だと、 全部壊死の可能性が72%、 部分壊死の可能性が 25.7% 。それゆえEPT陰性の歯の場合、97.7%に根管治療が必要という情報 (Seltzer et al. 1963a)からすれば、EPTは歯髄の壊死を検出する能力は高いと言えるが、EPTのsensitivity (感度:病気のものから病気のものを検知する能力、つまり壊死している歯を検出する能力)92%、Specificity(特異度:正常な歯から正常な歯髄を検出する能力、つまり正常歯髄を検出する能力)75%、Cold testのsensitivity75%、specificity92%であることからも、EPTだけではなく、Cold testを相補的に組み合わせて検査しなければ、歯髄の生活性の有無のチェックは困難だということがわかる。(Weisleder R 2009 JADA)

しかし、時にはEPTがあまり有効でないこともある。
①小児で根未完成歯の場合
②外傷直後の歯
③矯正中の歯
④痛み止めを服用している場合
である。

①は外傷を起こして神経が損傷してから機能回復するまで(baselineに戻るまで)時間がかかるため、また感覚神経の機能が喪失したままになっているが、血流はそのまま確保されている可能性があるためと言われている。
②は根未完成の歯にはラシュコフ神経叢が完成していないからである。歯牙が咬合に参加するまでは神経は象牙質、象牙前質、象牙芽細胞まで到達していない。従ってEPTよりもやはりCold testのほうが適していると言える。


③は矯正をしている患者では歯周組織や神経線維が変化を受けるので(メカニズムはよくわかっていない)、EPTに対する閾値が上がる。(矯正終了後9ヶ月後まで続くという)
したがってEPTの結果を注意深く考える必要がある。ちなみにやはりこの場合、Coldテストのほうが信頼性は高い。
④は痛み止め(NSAID、アセトアミノフェンともに)を服用していると、EPTに対する閾値が上昇するからである。

とはいえ、かの有名なPetersson(1999)の文献から考えても、EPTはCold testとともにその生活歯髄を特定する割合が80%を超えることからも、やはり今でも変わらず歯髄生活性検査の王道と言えるだろう。


また、余談になるが、Hot tooth(歯髄炎)の歯に麻酔が効いているかを調べる際も、EPTは(Coldよりも)有効である。麻酔をしてEPTで反応がなければ、その歯には麻酔が効いているとの間接的な証明になるのでこれは試してみる価値は十二分にある。(特にイマージェンシーで)

などと偉そうに書いているが、当然私もロヘスに突っ込まれて答えられなかったら調べたまでのことであり、皆さんも同じような疑問や場面に遭遇することが多いと思われるのでブログで取り上げてみた。

診断とは、非常に奥深い。しかし、色々と考えると非常に楽しいものである。

まだまだ、専門医となるには診断力に欠けていると言わざるを得ないと感じる。

Boardに対する試験対策やケースプレゼンテーションも始まった。
いよいよこれからが、大学院生活も本番だ。

USCで用いている、EPT。グローブをはめて使用できるので使い易い。約10万。サイブロンデンタルから発売されている。

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