2014年12月3日水曜日

日本のエンド=オーバー、米国のエンド=アンダー?

久しぶりにこのブログも更新です。
最近はテストで忙しく臨床の話を書く時間がありませんでした。
もう12月ですね・・・1年は早い。
このブログを始めたのは5月末です。
それからもう7ヶ月。時は早い・・・。

さて、今日は午前中の患者さんが無断キャンセル。したがって患者さんがいなかったはずだったのですが、同級生のサウジアラビア人がいつもの(笑)寝坊?してon timeに来れず、彼の患者(ペルー人50代女性)が私のところで初診になりました。

彼はすごくいい奴なんですが・・・いつも時間通りに来ない(笑)。必ず30分〜1時間は遅れてきます。

そして授業中はいつもipadで動画を見ているか、寝てるか(笑)。

ただすごいのは、当てられれば求められたもの以上の意見を自分で述べるところ。

サウジでは歯内療法専門で診療していただけあってそこはさすがです。

しかし、彼がいないのでスタッフ総出で、あいつはどこいった??の大合唱。

印象的だったのは、スタッフのボス格の方の御言葉で、『これでは(時間通りにこない)プロフェッショナルとは言えない。』という重いお言葉。

ただ、彼は一向に意に介さないようでした(笑)。

患者さんは7月にイマージェンシーで抜髄のみ(just extripation)をしている患者さん。仮封が脱離し、Perとなりひどい打診痛が生じていました。

根尖部歯周組織の炎症がひどいため、麻酔はカルボカインで伝達麻酔。その後頬側・舌側にセプトカインを2本使用し、ラバーダム装着。

こちらでは、Emergency, DDSプログラム共にCa(OH)₂の貼薬使用を認めていません(PGエンドのみCa(OH)₂は使用できます。)。

したがって、彼らはスポンジにクロルヘキシジンを浸して髄腔内にそれを入れて仮封をグラスアイオノマーでします。

しかし、考えても見ればスポンジ+クロルヘキシジンだと乾燥が不十分になります。そこによりによって感水性が強いGIを使うのですから、仮封としての耐久性には疑問符がつきます。私なら普通にCa(OH)₂+cavit使用しますが。。。Ca(OH)₂はこちらでは激安です。15$あれば買えます。しかもアマゾンから(笑)。

残存する仮封材とスポンジを除去すると、案の定髄腔内は汚染されていました。作業長を測定して今日は終了でした。

また今日はクリニックに日本人の患者さんが来ていて、日本の某歯内療法専門医(私達PESCJのグループではありません)が行った部位のやり直しを2年生のレジデントがしていましたが、治療前にトランスレートを頼まれました。

曰く、日本とアメリカで歯内療法の違いがあるのか?もっと詳しく言えば、日本はオーバーを好むが、アメリカはアンダーを好むと聞くが事実か?というご質問でした。

日本の歯科医師がオーバーを好むわけではありませんが、ここ福岡県ではかつて保険診療での根管充填・加圧加算はレントゲン的根尖まで根管充填材がピタッと入っていないと加圧加算を認めないという文化がありました(今でもあるのでしょうか?)。おそらく一部は、その名残、残遺から、日本人歯科医師がエンドではオーバーを好むというのはきていると思います。

私はその患者さんに、

"日本でもオーバーを良しとしない歯内療法をするグループもいます。私もそのグループに所属していますので日本人歯科医師=オーバー根充というのは誤解です。”と伝えておきました。

また、日本のエンド(オーバー根充)というのは西海岸のエンドの影響を受けているとよく言われますが・・・

USCはペーテンシーファイル推奨&作業長はApex-0.5mmです。これはApical ForamenからApical constrictionまでの解剖学的平均値に基づいています。

したがって、シーラーは逸出しやすく、テクニカルエラーで作業長が失われることも多いわけです。(特にリファレンスポイントの位置の設定、ストッパーの緩みに注意しないとすぐオーバーインストゥルメンテーションになります。)

最近私がなぜこちらは(西海岸は)オーバーが多いのか?ということを考えると、これが最大の理由の様な気がします。

頭ではみんなわかっているんです。オーバーはダメ。組織学的にも疫学的にも受け入れられない、と。

したがって、ケースプレゼンテーションで作業長測定、ポイント指摘、根充後デンタルがオーバーになると必ず教授陣からツッコミが入ります。

しかし理論と臨床は全く別物。臨床で作業長の位置をピシっと決めそれを維持するのは本当に大変です。

しかし、Apex-0.5とApex-1.0ではこうも差が出るのかと最近感じます。Apex-0.5mmは難しい!

要約すると、USCのエンドはペーテンシーファイル推奨、アピカルコンストリクションをなるべく解剖学的数値に近ずけようとする攻める傾向にあり、各種設定が甘いと作業長が失われやすい、それどころか根尖部の解剖学的形態を破壊しかねないという難易度が高い方法を行っているような気がします。

”西海岸派”として著名な、ラドルやブキャナンはちなみにApical Foramenまで根管形成していますが、USCではそのようなことは行っていませんし指導していません。根管形成は根管内に留めておけ!と言われますし、そのようなlitarature reviewも内容でした。また、もし根尖からオーバーしていればもう一回アピカルストップ作り直せ!と指示されます。

USCのエンドの作業長の設定方法を、日本のしかもGPの先生に勧めることは・・・私はできません。

やはりApex-1.0mmの方がテクニカルエラーを保証してくれるという意味では安心感が強いです。圧倒的にオーバーinstrumentationが少ないですから。

おそらく、日本でオーバーが多いのは西海岸の大学の影響ではなく、ラドルやブキャナンといった有名なエンドドンティストの影響だと思われます。重要なのは、彼らの意見はAAEや歯内療法専門医、あるいはペーパーの中で優位性を占めていないのだという事実を認識することです。(多分、こっちに来て彼らから話を聞いた誰かが日本で広めたのでしょう。。。そのあたり私はわかりませんが。)

ここでもう1度はっきりと言いますが、現在USCでは作業長=Apex-0.5mmです。そしてこの作業長は難易度が高い設定です。日本の歯科医師の先生には勧めません。

うちの代診には、APex-1.0mm。たとえ2mmアンダーになっても問題無しと教えていましたがこれは今でも変わりません。

また、ラドルやブキャナンのようなApical Foramenまで根管形成する方法は根尖部を破壊して予後を悪化するだけなので止めましょう。

とにかく鍵は、APex locaterでApexを指す位置でReferece pointからApexまでの距離をなるべく正確に測定し(そのためには極力大きなファイル>#15を使用することを推奨します)、そこから1mm引くことです。(無論、ラバーダムなどは必須ですが)

これさえ守れば、トラブルは大きく減少します。

さて、その日本人の患者さんはよく勉強してここのクリニックに来てるんだな、と感じました。

オーバー根充=根尖部解剖の破壊ですから、多くの疫学的調査で示されているように予後は芳しくありません。

彼女はそこを心配していたのでしょう。

ただ、その東京在住の日本人歯内療法専門医というのは患者さんの話を聞く限りどうも、明らかにGPのような気が(笑)・・・

まあそこは置いておいて(笑)、担当した2年生レジデントはこちらで既に開業しているベテラン歯科医師。

彼のエンドは私は好きです。なぜか。生物学的な侵襲を極力与えない術式を好むので、私と考え方に共通点が多いからです。

途中経過を見ていましたが、めでたく遠心根の病変がある部位はpatentが得られていました。近心は根尖が石灰化&レッジあり&病変なしなので無理に開ける必要はなさそうでした。

というように、今日の午前中は大変忙しく働いていました。

午後からは、統計の授業のレポート作成です。

こちらは最近は、毎日雨。ようやく日本でいうところの秋が来たという気候です。

長かったこのセメスターも来週末で終了。

その後は日本に帰って、エンドの処置をする予定です。

(Tさん、同意書の件、もうしばらくお待ちください。)

7 件のコメント:

  1. 松浦先生

    ご無沙汰しております。お元気そうでなにより嬉しく思います。
    日本は今週から、一気に寒くなりました。
    実は理事長ブログのほうも、拝見させていただいております。
    メーカーの人間として、この業界にどう携わっていくか、
    考えていくヒントをいただいたような気がします。
    松浦先生のルーツを知ることもできたように思います。

    ところで、BCシーラーについて、
    手数料などの価格の上乗せがあるようですが、
    日本では通販サイトで売られたりしているようです。
    http://www.smile-us.com/item1004.html
    私は歯科医師ではないので買えませんでした(笑)
    帰国後の購入先として、ご参考になれば幸いです。

    なんだかBCシーラーの話題ばかり振る人みたいになってますが、
    今後も私なりにBCシーラーの調査をして、
    先生に有用な情報を提供していけたら、と思います。

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  2. 手嶋さん
    ご無沙汰しています。こちらは先週まではまだまだ暑かったんですが、今週から急に雨が降り出して一気に秋が深まったイメージです。ただ、日中はまだまだ半袖ですが。理事長ブログ、あれ皆さん意外に見てらっしゃるんですね?(笑)。あれは患者さん向けに臨床以外のことを書こうと思っていたんですが、学生さんからメールもらったんで確認とってブログに書かせてもらいました。そうですね、本当はまだまだあそこから苦労が続いていくんですがそれ以上書くと皆さんが引きますのでやめときました(笑)。

    BC sealerですが、日本に帰国後はこちらにいる友人に頼んで送ってもらうことにしてます。ご紹介いただいた業者を介するとかなり高いですもんね。。。こちらはカード情報を業者に直接渡してあとは勝手に宅配してくれます。ヒポクロもCa(OH)₂もアマゾンで買えますしね。

    BC sealerですが、本当いろいろなところで登場してます、こっちのクリニックでは。うちはその辺りが非常に自由ですから、今は症例によってBC sealer使用したり、ユージノールで行ったり、Ca(OH)₂系で行ったりと、自由に使い分けてます。根充もシングルポイントでやったり、CWCTでアピカルプラグ4mmや5mmでやったりと色々試行錯誤しながら臨床できますので、臨床は非常に充実しています。ただ、私の場合はなぜか再治療やC-shapeやHot tooth caseが多く、特殊なケース(外部吸収やRevascularization)などには今の所、縁がありません。最近はずいぶん慣れてきました。なるべく1回法で全ての症例を終わらせるようにしてます。とにかく、いっぱい臨床をさせてもらえるのでその点だけは今の所大満足のプログラムです。

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  3. 松浦先生

    こちらのブログはこちらのブログで、
    難しいけれど勉強させていただいていますし、
    理事長ブログは理事長ブログで、
    楽しい話や考える話で興味深く読ませていただいています。

    理事長ブログのその先の話は、いつか先生とお会いできたときにでも、
    ゆっくり聞かせていただけたら嬉しいです。
    先生が日本で開業された暁には、ご挨拶に伺うことができたら、と夢見ております。
    それまでに先生とちゃんとお話ができるよう、歯科の勉強を積んでおきたいと思います。

    アマゾンが利用できるとは、アメリカはとてもフリーな感じなのですね。
    いちメーカーとしては、製品にしたものを買っていただきたい気持ちはあるのですが、
    水酸化カルシウムの粉やヒポクロの液など、価格的には安いものには敵わないな、というのがあります。
    高価な分うちの工場できちんと管理して生産しているという点もあるのですが、
    価格面のメリットを打ち破るのは、どうしても難しいところもありますよね。

    BCシーラー、まだ発刊前みたいですがJOEに新しく2報掲載されるみたいです。
    こうして今後、段々とデータが積みあがっていくのかもしれないですね。

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    1. こちらのブログはなるべく臨床の情報提供だけにしようと思っているんですが、ここ最近の最大のストレスは、臨床以外の基礎系科目のハードな学習に足を取られてエンドのこうした文献に目を配る時間がないというやつです。早く冬休みに入ってくれないかと思います。思いっきり消化不良の論文を読みこなせますので。。。

      教えていただいた2つのBC sealerの論文のうち、Haapasaloが関与している方は読ませていただきました。これなかなか面白いですね。結果はBC sealer有望じゃないですか(笑)。でもMTA filapexはダメダメですね(笑)。細胞毒性ありまくりです。しかもシーラーって硬化すると濃度薄くなるので毒性低くなるのにこいつは逆に毒性が強くなる・・・。なぜこの2つがここまで違うのか?をシリカそのものでなく、それぞれに含まれる添加物(BC sealerは完全にバイオセラミック系無機物、MTA filapexはレジン、鉛)の差ではないかという考察は、以前BC selaerをレビューしてそれに毒性があるという論文に驚きを感じたので、1つ理屈が分かってなんだかスッとしました(笑)。今までのIn vitroでのBC sealerの実験系にはない考え;実際の口腔内で起きること;シーラーは硬化して濃度薄くなる&はみ出ても細胞外液で除去されるので濃度を高低に調整しているところなどなるほどなあという感じでした。勉強になりました。ありがとうございました。
      やっぱり、Haapasaloっていいペーパー書きますね。この前USCのシンポジウムに来た時は、理想的な洗浄は、結局最終的には俺が関与しているレーザーもどきのシステムだ!と落ちをかまして会場から若干、ブーイング出たんですけどね。。。

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    2. 松浦先生

      論文がある、とエラそうに言ったものの、
      まだちゃんと読み込んでいなかったもので、頑張って読んでおりました。
      先生の解説付だったので、スムーズに理解することができたように思います。
      こちらこそ、ありがとうございました。
      今のところ、基礎研究データでは、BCシーラーに軍配が上がるみたいですね。
      まぁここからClinicalのデータでFillapexが大きく上回るようなことはなかなか起きないでしょうから、
      BCシーラーのほうが、Bioceramic系(MTA系)シーラーとしては有用そうだ。という評価になりそうですね。
      それにしてもFillapexのほうは、とりあえずMTAが配合されているだけのシーラーのように感じられます。
      「MTA入れとけばOKなんだろうから、とりあえずSealapexの系に入れとけHaHa!」
      みたいな感じで開発されたんでしょうか(笑)

      もう一個の方の論文も、目を通したのですが、こちらはとても難しいです。。。
      歯の断面を解析して、シーラーと歯質間で起こることを見ようとしているように読めるんですが、
      界面のようすを断面全体を見るような方法でちゃんと見れるのか?どうなんでしょう(汗)

      Haapasalo先生ですが、ちょうど今年の秋の保存学会で招待講演をされておりました。
      最後のほんのちょこっとだけしか聴けていないのですが、
      おそらく松浦先生が聴かれたシンポジウムと同じ内容だったんではないかと思います。
      「Gentle Wave」って名前がデカデカと表示されたとこでしょうか。
      さすがに日本ではブーイングは出てなかったようです。サラッと流れていきましたが(笑)

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  4. そうそう、Gentle Waveです!
    http://sonendo.com

    結局それ買わないとみたいなオチになって会場から一斉に、え〜!っていう声が出ましたからね。
    Gentle wave、USCに業者が来てて使わせてもらいました。
    なんというか、ハイテクなスチーマーって感じでしたね。そしてむちゃくちゃ高い(笑)
    日本での販売はないって言ってました。
    ちなみに教授のロヘスは、ロレックスの腕時計に当てたらこれ綺麗になるかな?(笑)と何人ものレジデントにボケをかましていましたね。これ見ると、それしか思い出せないんですよね(笑)

    この論文だけだとBCシーラーに成るんでしょうが、IN vitroですのでなんともまだ・・・。
    多分、考察にあった鉛やらレジンやらに成るんでしょうが、本当このシーラーはまだよくわからないです。今、北米の某エンドの大学院がBC sealerのみをレジデントに使わせています。おそらくこれはリサーチのためのものだと思いますが、Case seriesやCohortやらがそこから出てくると面白いのかなと思いますし、個人的にはRicucciとかがBC シーラーで根充した後の組織切片(ヒト)を出してくれないかなあと思っています。

    もう1個のはすいません、まだ読んでないです。
    今週テストなんで、それ終わったら読んでみますね!

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  5. 松浦先生

    たしかに、講演のあのタイミングでGentle Waveの名前が出てきたら、
    皆さん総ツッコミみたいになるのは楽に想像できます。
    保存学会でも、ズッコケた先生も何人かはいらっしゃったかもしれません(笑)
    教授の先生、なんだかお茶目な方なのですね(笑)

    シーラー関連、また結論を早めようとしてしまいました。
    私の悪い癖のようです。申し訳ございません。
    大規模な、臨床試験のような計画が進められているのですね。
    結果が表に出てくるのはまだ先のことになりそうですが、楽しみです。

    もう一個の論文のほう、急かすような感じになって申し訳ありません。
    しかし、歯科医師の先生と論文の話をさせていただくのはとても良い経験になります。
    本当にありがとうございます。
    私の残念な英語力では色々とアレですが、もう少し時間をかけて解読していきます。
    先生はお忙しい身ですので、あまり私の相手をしていただくのも忍びないのですが、
    無理のない範囲で、ご意見をお聞かせいただければ、幸いです。

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